【完結】幼馴染の専業ニセ嫁始めましたが、どうやらニセ夫の溺愛は本物のようです
3.お帰りのキスを強要する旦那様(ニセ)。・その5
「ふむ。確かに」
「こ、こここ、こんな事するの初めてなんだから! もう終わりにしてっ! 食事になさいますか、それともお風呂でございますか!?」
ヤケクソで話を反らした。
「伊織、キスは初めてなのか」
何故蒸し返す!?
「あ、あた、あたり、当たり前でしょっ! わ、わわ、私はね、やっすい女とは違うの。キスもまだの、新品のまっさらよ。私と結婚してくれた男性にだけ、するの。大事に取っておいているの」
一矢のせいで男性に縁が無かっただけ、とは言えず。
「そうか」
一矢はそれを聞いてほっと息をつき――・・・・驚く程に、嬉しそうな顔を見せた。
な、何故一矢がそんな顔を・・・・?
「伊織、食事にしないか。中松に運ばせる。一緒に食べよう!」
「あ、う、うん」
「おかえりのキスは・・・・そうだな、悪くなかった。毎日受けてやってもいいぞ」
えぇ――っ、それって嬉しい事なのぉ!?
毎日なんて、勘違いしちゃいそうになっちゃうじゃないの!
一矢の馬鹿!
「さあ、食事にしよう。中松、頼む」
「承知致しました」
中松は一矢に頭を下げ、去って行った。何帖あるのかわからないくらい広いリビングダイニングに二人で向かい、黒の大理石の豪華で広いテーブルに、合わせて置かれた本革の黒椅子に腰を下ろした。
しかし、そこで問題がひとつ。
普通、二人で食事するなら向かい合わせになるよね?
八人掛けの広いテーブルの中央に用意されていた食器類やマットの二人分が、密接して隣り合わせで置かれているのだ。おかしくない?
「あの、一矢、これは?」
「どうした。何か問題でもあったか?」
「あの・・・・食事ってさ、普通向かい合わせで食べない?」
「私は何時も一人で食事をしているのだ。傍に誰かがいる食事というのを、自宅で密接して経験したいのだ。いけないか?」
「い・・・・いけなくない・・・・けど」
真顔でこんな風に言われたら、ダメって言えなくてそのまま着席した。
こんなに広い空間で椅子が隣接するほど密になるなんて、どうかしている。
ドキドキする。食事作法の悪い私が、上品な一矢の前でどうしろと言うのだ。何かの拷問か?
「一矢・・・・あの、ちょっと近いような・・・・?」
「そうか。お前の家はいつもこれくらい接近していると思うのだが」
「あの、私の家は狭いし家族も多いから。・・・・でも、この家は広いじゃない?」
「広いからと言って隣同士に座ってはいけないという規則も定義も無い筈だ。何が悪い」
言い出したら聞かないのが、一矢だ。弁も立つから簡単に論破される。
これはニセ夫婦になるための練習なのだろうか。仲良さ気な所をこれでアピールする作戦なのかな。考えても解らないので、勝手にそう思う事にした。
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