【完結】幼馴染の専業ニセ嫁始めましたが、どうやらニセ夫の溺愛は本物のようです

さぶれ(旧さぶれちゃん)

3.お帰りのキスを強要する旦那様(ニセ)。・その4

 
「夫婦たるもの、夫の帰宅時には、妻の方からキスを施すと聞いたぞ。伊織、私にキスをするのだ」

「はあぁ!?」

 令嬢なら上げるような声ではない、素の声で切り反してしまった。絶対に後から中松の嫌味が飛んできそうだ。
 一矢とキス・・・・そんな、憧れるけど、そんな・・・・中松も見ている今ここでキスしろと言うのか!
 私は一度たりとて、男性とキスをしたことがないのだ。自慢じゃないが。
 一矢が好きだから、一矢以外の男の人なんて考えた事も無かったし。


「不満なのか」


 拗ねたような物言いをされた。嫌がったと思われたのだろうか。

「あ、あの、私・・・・男性にはその・・・・触れた事が無くて・・・・不満とか・・・・そういうのじゃなくて、その・・・・ずっと店の手伝いとか料理ばっかりやっていたから、慣れてなくて上手くできないと思う・・・・」

「上手くできなくても構わん。今後、夫婦を演じるのだ。その程度やって貰わなければ困る」

「けっ・・・・契約にはそのような事項は無かったと認識が・・・・」

「つべこべ言うな。主人の私がしろと言っているのだ。さあ、早く」


 旦那様(ニセだけど)、ハードル高すぎですって!
 しかも『妻の方から旦那様にキスをする』なんて、一体どこ情報なのだろうか。中松情報だったら今度シバく。

 私は目を閉じている一矢に屈むよう頼んだ。百八十センチを超える長身で、九頭身のモデル並みのカッコよさ、スタイル。身長が百六十センチほどの標準身長アーンド標準体型な私には、釣り合わない程の美男子だ。
 こんなややこしい物件に惚れちゃったのが、運の尽きなんだろうか。
 私は未だに恋人のひとりもできないし、この年になってキスのひとつもしたことが無い。


「ぜ、絶対に目、と、閉じておいてよ? 開けたら承知しないからねっ」


 中松も行く末を見守っている始末だし、ああ、もう!
 こんな状況で大切に守って来たファーストキスを投げ捨てるなんて、絶対に嫌だ!

 私は一矢のほっぺに軽く唇を付けた。「はい、終わりっ!」

 一矢が切れ長の瞳を開いた。まつ毛長い。少女漫画に出てくるような美形で、幼馴染とか身内びいき抜きにしても綺麗な顔。



 ああーああー、静まれ心臓! 動機が・・・・激しくなる。顔が赤くなっているのが解る。



「目を閉じている隙にやってしまうなんて、どういうつもりだ。何も見えなかったぞ」

 不満そうに言われた。

「かっ・・・・感じたでしょっ、わ、私の息遣いとかっ、く、唇の・・・・感触、とか」

 目が合った。一矢の綺麗な顔に見つめられると、身体が強張る。動けなくなちゃう。

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