【完結】幼馴染の専業ニセ嫁始めましたが、どうやらニセ夫の溺愛は本物のようです

さぶれ(旧さぶれちゃん)

3.お帰りのキスを強要する旦那様(ニセ)。・その2

 
「あの・・・・インターフォンはお鳴らしにならなかったのでしょうか? 故障でございましたでしょうか?」

「いいや。インターフォンは鳴らしていない。我が嫁がどのように修業をしているのか、様子を見ようと思ってな。セキュリティーを解除して黙って入ってきた」

「左様でございましたか。一矢様のご希望を先にお伺いしておけば良かったですね。失礼いたしました」

 スマートに侘びた中松に、チラ、と見つめられた。

「お、お帰りなさいませ、一矢様」

 挨拶に一歩出遅れた。普段はゆるTと呼ばれるようなラフなトップスに、下は殆どゴムの入ったズボンが主な服装で、たまに着飾るのは家族で外食の時か友達と遊びに行く時だけ――そんな私が初めて、薄ピンクに襟元がレース、袖もレースにひざ下丈、全長約百二十センチくらいのふんわりとしたお嬢様ワンピースを身に着けているのだ。勿論これは、お嬢様に扮する為に中松が用意したものだ。一矢の趣味なのか、中松の趣味なのか、それとも何も関係の無いものなのかさえ、判別がつかない。とりあえず高級ブランド品みたいだから、値段は鬼高だろうという事くらいしか。

 しゃんと背筋を伸ばし、ワンピースの下に巻いたコルセットごとお腹に力を入れて立った。ニセ嫁として頑張っている修行の成果を、ニセ夫に見て貰わなければ。


「ほう・・・・見違えたな」


 口の端を持ち上げ、一矢が笑った。不敵な笑いなのに、ときめいてしまう趣味の悪い私。
 あああー。

「だが、私の前でその様な言葉遣いは不要だ。伊織、普段通りで良い。帰ったらお前が出迎えてくれるというのがベストだ。私も伴侶を貰ったのだ、という気分に浸れるだろう?」

「あ・・・・うん。解った」

「それより、中松と何を楽し気に話していたのだ? 場合によっては浮気とみなすぞ」

「はあっ!? クソ中松なんかと浮気だなんて、冗談じゃないわよっ!! 厳しいご鞭撻(べんたつ)に対して嫌味合戦をしていただけだしっ!」

 一矢の言葉に、あれだけ練習してきた美しいとか上品とかそういう類の言葉遣いは、一切合切吹き飛んだ。
 どうやら私は根っから上品には向いていないらしい。育ちのせいか、それとも自身のせいなのか。恐らくどちらも正解だろうと自分で結論づけた。

「伊織様、クソは余計でございますよ。お言葉遣い・・・・淑女になられるなら、もう少し改めていただかないと困ります」


 こめかみをピクピクさせた中松に対して、一刀両断!



「主人がいいって言ったのよ! 文句あるなら一矢に言って! ね、一矢?」



 助けを求める為ににっこり笑って一矢の方を見ると、彼はお腹を抱えていた。そして――




「あーっはっはっは! 傑作だな」




 見た事もないような楽しそうな顔で、一矢が笑った。


 きゃあああ――っ!

 一矢のくせに!
 一矢のくせに!!




 なんでそんなにカッコイイのよおおおお――――っ!!





 

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