【完結】幼馴染の専業ニセ嫁始めましたが、どうやらニセ夫の溺愛は本物のようです

さぶれ(旧さぶれちゃん)

3.お帰りのキスを強要する旦那様(ニセ)。・その1

 あれからニセ嫁修行をこなし、へとへとになった。もう無理だ。鬼の修業、キツすぎる。早くも音を上げたくなってしまった。
 きつくしめたコルセットで何とか姿勢は保てたものの、息苦しさに姿勢が乱れると鬼中松の嫌味が飛んでくる。気を抜く暇が無い。
 更にテーブルマナー、話し方、振舞い方・・・・全てダメ出しされ、それをまともに一つも修正できないまま、午後七時を迎えた。お腹すいた。


「そろそろ一矢様がお帰りの時間になります。早速お出迎えをなさっていただきます。失敗は赦しませんよ」


 ひいいー。鬼だぁー。鬼ヶ島からやって来た鬼だぁー。怖いよー。
 悪い姿勢や言葉遣いで一矢を出迎えたりしたら、クソミソに言われるんだろう。自然とコルセットで巻かれた身体に力が入る。
 今日の最後の最後に、ボロクソに言われて悔しい思いをしながら家に帰りたくない!

「あの・・・・中松。気になったんだけどさ」

「『あの、中松、少し気になる事があるのですけれど』と、せめてニセ嫁修行の身の間、このくらいの言葉遣いはできませんか、伊織様」


 がああー! いちいちうるせーな、小舅かああ! と言いたい。


「『いちいちうるせーな』等と、淑女は心で思ったりなさいませんよ?」

 ぎく。ばれてーら。顔に出ているのね。きっと。
 反省して、キリっとした顔に切り替えた。これ以上文句言われたら、今すぐニセ嫁やめてやるー、って怒って帰っちゃいそうだから。

「中松、一矢・・・・様のお食事の用意は、しなくてもよろしいの?」

「一矢様の食事は、こちらで用意しておりますのでお気になさらずに。伊織様はどうかご自分の事だけをお考え下さいませ」

 冷徹鬼!

「あら、そうでござーますの」

「あら、そうでございますの、でございますよ」

「まあ、おほほ」

「お顔が般若みたいになってございますよ、伊織様。お鏡でも見られたらいかがでしょうか」


 目の笑っていない笑顔で言われた。



 があああー!



 この世にこんな嫌味な男、いないわ!
 こんなクソ鬼だから、いい年なのに嫁のひとりもいないのね! ふん。可哀想に!!
 中松を脳内で勝手にディスる(悪口を言う)事で、正気を保った。


「楽しそうだな」


 玄関先で中松とバトルしていると、不意に声がした。一矢の声だ。

「あっ」

 二人で同時にハモり、慌てて一矢に向き直った。

「これは一矢様、お帰りに気が付かず、大変失礼いたしました」

 中松が慌てふためいている。ふふ、この男の焦るところ、初めて見た。
 頭を下げて主人(ニセだけど)に侘びている。うーん、嫁(ニセだけど)としては気分いい!

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