【完結】幼馴染の専業ニセ嫁始めましたが、どうやらニセ夫の溺愛は本物のようです

さぶれ(旧さぶれちゃん)

2.ニセ嫁修行、始めました。・その6

 グリーンバンブーで働き始めてからは、滅多に一矢の家に来ることは無くなった。久々に入る豪邸に若干尻込みしつつも、お邪魔致します、と背筋を伸ばして入った。
 ピカピカに磨き上げられた白い大理石。石の種類も名前も知らないような豪華な大理石が広い玄関を彩り、その上に広がる廊下、部屋、階段、天井からぶら下がるお洒落なライトに洗礼された空間が見渡せる。
 初めて『私だけの家が出来上がったから、特別遊びに来させてやってもいいぞ』と嬉しそうに言われてお邪魔をした日は、一体何年前だっただろうか。変わらず美しい内装に、無駄なものが一切なく、ゴミひとつ落ちていない。あああ、こんな屋敷の主の嫁とか、偽でも荷が重いよおぉお。

 何度かお邪魔した事はあるが、バスルームを借りるのは初めてだから場所を案内してもらった。

「バスルームはこちらです。湯をはった方がよろしいでしょうか?」

「ううん、シャワーを借りられたらそれでいいの。着替えとタオルも持ってきたわ」

「伊織様がご持参の貧相なお召し物は、ご遠慮いただきます。下着から全て、こちらで用意したものをご着用下さいませ。タオル類もこちらでご用意したものをお使い下さい」

「ひ・・・・んそぅ・・・・!」

 中松の言葉に目を剥いた。貧相で悪かったわね!
 これでもデパートで奮発して買ったお気に入りのワンピース持ってきたのよっ!

「幾ら偽物とはいえ、貴婦人になるにはまず安っぽいお召し物から改めていただきます。姿勢を正す為にコルセットもご着用いただきます」


 安っぽい・・・・散々な言われようだ。


「コルセット? えーっ、苦しいから嫌」

「ご冗談を」鼻で笑われた。「では、立派なニセ婦人になる為に、無理やり俺がコルセットを着用させてもよいという見解でございますが、異存はございませんね?」

「・・・・自分で着ます」

 中松なら本当にやりかねない。そして私の身体を値踏みして『貧相でござますね、ふっ』とか言って鼻で笑うに違いない。



 ちぃくしょぉおおおおお――! 中松めー! 今に見てらっしゃい!



 想像だけで腹が立った。恐らく物凄い形相で中松を睨んでいたと思うが、構うもんか!

「シャワーなら十五分以内にお済ませ下さい。油臭い髪を洗うようでしたら、後で俺が整えて差し上げます。まずはお召し物の着用までをお済ませ下さい。では、外で待機しております。全てが終わられたらお声がけをお願いします」

 持ってきた着替えは回収され、スマートフォンも一緒に取り上げられた状態で、中松はバスルームから出て行った。



 中松のクソ鬼!



 あら、いやだ。仮にも淑女な令嬢(ニセだけど)になる練習を行っている女が、クソとか言ってはいけませんわね、おほほ。

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