【完結】幼馴染の専業ニセ嫁始めましたが、どうやらニセ夫の溺愛は本物のようです

さぶれ(旧さぶれちゃん)

1. 私、一千万円で身売りする事になりました。・その2


「それでその、一千万円の借金ってどうやって返すのよ!」

 頭痛がしてきた。私の家は代々洋食屋を経営している。持ち家だから辛うじて借金こそないものの、さっきの通りお母さんが他の人を助ける為にって店の利益をそういう事に使っちゃう上、夫婦ラブラブだから子だくさんで貯金なんて全然ありゃしないのよおおお!
 一千万円だなんて、私のへそくりじゃ返せるような金額じゃないしいいい!

 家族構成は父と母、それに私が長女、大学二年生の妹が一人、高校三年生の弟、高校一年生の弟、中学一年生の弟が一人、小学五年生の妹が一人の計六人の子供。祖父母はもう亡くなっているから、合わせて八人家族。お母さんの祖母父はまだ健在だが、別に住んでいる。

 私は大学に進学せず、地元の公立高校卒業と同時に我が洋食店で働いている。早く一人前の料理人になるべく奮闘中で、ベテランコックが定年で辞めることになったから、ようやく最近焼き場を任されるようになった。ステーキやトンテキやグリルチキン等、この店で出す焼き物系を担当している。
 でも、それだけじゃ物足りない。早く揚場も覚えたいし、秘伝のソースとかカレーとか、色々作りたいと思っている。
大学生の妹、美緒(みお)は農業大学に通っている。無農薬野菜を上手に育てて店で使いたいと言っているし、高校三年生の琥太郎(こたろう)もホールを手伝ってくれているし、ゆくゆくはキッチンに入るだろう。家族みんなで大切にしている洋食屋だ。


「仕方がないから、借金のカタに店を売る事にする。これしか方法が無いんだ。わかってくれ、伊織」


 代々受け継がれ、私達家族みんなで大切にしてきた店を突然『借金のカタに売る』とか言い出したものだから、




「はあ――――――っ!?」




 と、超特大の声が私の口から飛び出た。
 勝手に借金一千万円も拵(こしら)えてきた挙句、百年も続いてきた大事なお店を簡単に手放すですって!?
ふざけんじゃじゃないわよおおお――――っ!!
 しかも住居兼用なのに、この店(というか家)売ったら、どうやって生活していくのよおおおお――――っ!
      ・・・・
 家族全員が家無し子になっちゃうじゃないのよぉおおお――!


「騒がしいな。一体朝から何を騒いでいるのだ」


「いっ、一矢・・・・」


 家族会議のすったもんだ中、幼馴染の三成一矢(みつなりいちや)が突如現れ、リムレスフレームの細めの四角メガネに包まれた鋭い目を私に向けてきた。
 一矢は、イタリアのローマで創業された紳士服ブランド・ブリオーニのスーツが今日もキマっている。最高級の素材と熟練職人によるハンドワークに拘った、イタリアのエレガンスを追求し続けていると言われるスーパーブランドのスーツだ。上品な一矢によく似合う。
 風も無いのに艶やかな濃アッシュグレーの――最早銀髪――が、さらーっと流れる様を見ると、上流階級の男の感じがぷんぷん漂ってくる。何時もなんかいい匂いしているし、洋食屋のソース臭い私の匂いとは大違いだ。



 一矢のクセに・・・・ちぃくしょう、カッコイイ。



 

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