冷たい部長の甘い素顔【コミカライズ連載中】
将軍編 第2話 異動願い
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9月8日   土曜日
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仕事が残っていた俺は、翌日休日出勤をする。
仕事をしながらも、思い出すのは、昨日の事。
異動願い、出してもいいものだろうか?
俺は、迷いながら、仕事を続け、一段落した所で、気分転換に休憩所にコーヒーを飲みに行った。
すると、コーヒーを飲んでる俺の横を偶然にも社長が通りかかった。
「ああ、秦野くん、今日も休日出勤?
残業代も出ないのに、いつも悪いね〜」
と気のいい笑顔を見せる。
この人は、ものすごく仕事ができる人なのに、全然それを感じさせないくらいに温和だ。
「いえ、ちゃんと役職手当はいただいてますから」
そう、俺は、部長だから、管理職としての手当ては付いているが、その分、どれだけ働いても残業代は、一切出ない。
「じゃあ、無理のないように、頑張ってね」
そう言って、にこにこと通り過ぎようとする社長を、俺は、
「社長!」
と思わず呼び止めた。
「ん?   何かな?」
どうする?
これはあくまでも私的なことだ。
言うべきじゃない。
『なんでもありません』って言えば、それで済む。
そう、俺は、分かってたんだ。
正しい社会人として、どう行動すればいいのか。
だけど、俺は、振り向く社長に、
「話があるんですが、あとで社長室に伺ってもいいですか?」
と声を掛けた。
「もちろん」
社長はにこやかに答える。
……ああ、言ってしまった。
5分後、
コンコン…
俺は、社長室をノックする。
「どうぞ」
社長の声を確認して、ドアを開ける。
「失礼します」
本当にこんな希望を出してもいいんだろうか。
今なら、まだ間に合う。
なんでもありませんって言って、ドアを閉めればいい。
そんな迷いが顔に出ていたんだろうか?
社長は、自分から話を振ってきた。
「秦野くん、何か相談事?」
「え?」
なんで……
「顔に書いてあるよ。
うちには子供がいないからね。
僕は勝手に秦野くんをうちの子みたいに思ってるんだよ。
だから、遠慮しないで、何でも相談して」
社長は、相変わらず、にこにこと笑顔で言う。
ほんと、社長には、敵わないな……
「実は、異動をしたくて……」
言ってしまった。
もう、後には引けない。
「異動?」
「はい。
企画部に行かせていただけませんでしょうか?」
開き直った俺は、姿勢を正して、まっすぐ社長に向き合う。
「ほう……
企画部とは、ピンポイントな指定だね〜。
理由を聞いてもいいかな?」
社長は、一瞬、首を傾げると、そのまま身を乗り出して尋ねる。
「それは……
個人的な希望としか……」
理由を言ったら、絶対に通らないだろう。
こんなあり得ない私的な理由……
それでも、俺は、社長に嘘をつきたくなくて、曖昧にごまかすことしかできない。
「うん。
で?
どんな個人的希望?」
「………」
社長は、簡単にはごまかされてはくれない。
まぁ、当たり前といえば、当たり前なんだけど。
俺は、なんでそんな曖昧な言い訳でごまかせると思ったんだろう。
俺は、ひとつ深い深呼吸をしてから意を決して口を開いた。
「園部 爽さんです。
実は、恥ずかしいんですが、今まで、ずっと片思いをしてました。彼氏がいると聞いていたので諦めてたんですが、どうも最近、彼氏と別れたみたいなので、ダメ元で行動してみようかと思いまして……」
まぁ、ダメだろうな、こんな理由……
けれど、社長は分かってるのか、いないのか、相変わらずにこにこしている。
と思ったら、社長は、うなずきながら口を開いた。
「うんうん、園部さんは、いいよね。
秦野くんには、ピッタリだと思うよ」
社長が.園部 爽をお気に入りなのは、本社の人間ならみんな知っている。
特に、部長以上の役員の間では、有名な話だ。
社長は、しばらく思案した後で、口を開いた。
「……うん! 分かった。
私は、秦野くんを応援させてもらうよ。
ただし、条件がいくつかあるんだけど、いいかな?」
ん?
条件?
なんだ?
社長は、人が良さそうに見えて、実は、意外としたたかなところがある。
「何でしょう?」
俺は、少し緊張ぎみに、その条件とやらを確認する。
すると、社長はさも当然と言わんばかりに、さらっと答える。
「彼女を結婚退職させない事」
「は?」
俺は、思わず耳を疑った。
もっととんでもない条件が来ると思ってたのに……
売り上げを2倍にしろとか、集客率を上げろとか……
「だから!
まず、ひとつ目!
秦野くんには、がんばってもらって、なんとしても園部さんとのお付き合いを勝ち取ってもらいましょう。
次に、ふたつ目!
さらに、そのままがんばって仲良くしてもらって、いずれは、園部さんと結婚してください。
最後に、3つ目!
秦野くんには、仕事に理解ある夫になってもらって、家事も上手に分担してもらって、園部さんには定年まで働いてもらってください。
あ、もちろん、産休や育休はとってもらって大丈夫だから。
以上が、私の希望なんだけど、叶えてもらえるかな?」
なんだ、それ!?
ひとつ目さえクリアできれば、あとは、そんなに難しい要望じゃない。
問題は、ひとつ目をクリアできるかどうかだ。
「………できる限りの努力はしてみます」
俺は、明言は避けた。
こればかりは、園部 爽次第なんだから、仕方ない。
それにしても、社長、どんだけ園部の事好きなんだ!?
でも、まぁ、結婚退職させないようにするだけで、彼女を手に入れられるなら、安いものだ。
俺は、彼女のためなら、いくらでもがんばれるんだから……
9月8日   土曜日
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仕事が残っていた俺は、翌日休日出勤をする。
仕事をしながらも、思い出すのは、昨日の事。
異動願い、出してもいいものだろうか?
俺は、迷いながら、仕事を続け、一段落した所で、気分転換に休憩所にコーヒーを飲みに行った。
すると、コーヒーを飲んでる俺の横を偶然にも社長が通りかかった。
「ああ、秦野くん、今日も休日出勤?
残業代も出ないのに、いつも悪いね〜」
と気のいい笑顔を見せる。
この人は、ものすごく仕事ができる人なのに、全然それを感じさせないくらいに温和だ。
「いえ、ちゃんと役職手当はいただいてますから」
そう、俺は、部長だから、管理職としての手当ては付いているが、その分、どれだけ働いても残業代は、一切出ない。
「じゃあ、無理のないように、頑張ってね」
そう言って、にこにこと通り過ぎようとする社長を、俺は、
「社長!」
と思わず呼び止めた。
「ん?   何かな?」
どうする?
これはあくまでも私的なことだ。
言うべきじゃない。
『なんでもありません』って言えば、それで済む。
そう、俺は、分かってたんだ。
正しい社会人として、どう行動すればいいのか。
だけど、俺は、振り向く社長に、
「話があるんですが、あとで社長室に伺ってもいいですか?」
と声を掛けた。
「もちろん」
社長はにこやかに答える。
……ああ、言ってしまった。
5分後、
コンコン…
俺は、社長室をノックする。
「どうぞ」
社長の声を確認して、ドアを開ける。
「失礼します」
本当にこんな希望を出してもいいんだろうか。
今なら、まだ間に合う。
なんでもありませんって言って、ドアを閉めればいい。
そんな迷いが顔に出ていたんだろうか?
社長は、自分から話を振ってきた。
「秦野くん、何か相談事?」
「え?」
なんで……
「顔に書いてあるよ。
うちには子供がいないからね。
僕は勝手に秦野くんをうちの子みたいに思ってるんだよ。
だから、遠慮しないで、何でも相談して」
社長は、相変わらず、にこにこと笑顔で言う。
ほんと、社長には、敵わないな……
「実は、異動をしたくて……」
言ってしまった。
もう、後には引けない。
「異動?」
「はい。
企画部に行かせていただけませんでしょうか?」
開き直った俺は、姿勢を正して、まっすぐ社長に向き合う。
「ほう……
企画部とは、ピンポイントな指定だね〜。
理由を聞いてもいいかな?」
社長は、一瞬、首を傾げると、そのまま身を乗り出して尋ねる。
「それは……
個人的な希望としか……」
理由を言ったら、絶対に通らないだろう。
こんなあり得ない私的な理由……
それでも、俺は、社長に嘘をつきたくなくて、曖昧にごまかすことしかできない。
「うん。
で?
どんな個人的希望?」
「………」
社長は、簡単にはごまかされてはくれない。
まぁ、当たり前といえば、当たり前なんだけど。
俺は、なんでそんな曖昧な言い訳でごまかせると思ったんだろう。
俺は、ひとつ深い深呼吸をしてから意を決して口を開いた。
「園部 爽さんです。
実は、恥ずかしいんですが、今まで、ずっと片思いをしてました。彼氏がいると聞いていたので諦めてたんですが、どうも最近、彼氏と別れたみたいなので、ダメ元で行動してみようかと思いまして……」
まぁ、ダメだろうな、こんな理由……
けれど、社長は分かってるのか、いないのか、相変わらずにこにこしている。
と思ったら、社長は、うなずきながら口を開いた。
「うんうん、園部さんは、いいよね。
秦野くんには、ピッタリだと思うよ」
社長が.園部 爽をお気に入りなのは、本社の人間ならみんな知っている。
特に、部長以上の役員の間では、有名な話だ。
社長は、しばらく思案した後で、口を開いた。
「……うん! 分かった。
私は、秦野くんを応援させてもらうよ。
ただし、条件がいくつかあるんだけど、いいかな?」
ん?
条件?
なんだ?
社長は、人が良さそうに見えて、実は、意外としたたかなところがある。
「何でしょう?」
俺は、少し緊張ぎみに、その条件とやらを確認する。
すると、社長はさも当然と言わんばかりに、さらっと答える。
「彼女を結婚退職させない事」
「は?」
俺は、思わず耳を疑った。
もっととんでもない条件が来ると思ってたのに……
売り上げを2倍にしろとか、集客率を上げろとか……
「だから!
まず、ひとつ目!
秦野くんには、がんばってもらって、なんとしても園部さんとのお付き合いを勝ち取ってもらいましょう。
次に、ふたつ目!
さらに、そのままがんばって仲良くしてもらって、いずれは、園部さんと結婚してください。
最後に、3つ目!
秦野くんには、仕事に理解ある夫になってもらって、家事も上手に分担してもらって、園部さんには定年まで働いてもらってください。
あ、もちろん、産休や育休はとってもらって大丈夫だから。
以上が、私の希望なんだけど、叶えてもらえるかな?」
なんだ、それ!?
ひとつ目さえクリアできれば、あとは、そんなに難しい要望じゃない。
問題は、ひとつ目をクリアできるかどうかだ。
「………できる限りの努力はしてみます」
俺は、明言は避けた。
こればかりは、園部 爽次第なんだから、仕方ない。
それにしても、社長、どんだけ園部の事好きなんだ!?
でも、まぁ、結婚退職させないようにするだけで、彼女を手に入れられるなら、安いものだ。
俺は、彼女のためなら、いくらでもがんばれるんだから……
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