冷たい部長の甘い素顔【コミカライズ連載中】

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第63話 散策

散歩に行こうという将軍さんの提案に、

「うん!」

と私は頷いて、俯いていた顔を上げた。

優しく微笑む将軍さんと目が合うと、それだけでなんだか嬉しくなる。

私たちは、ゆっくりとお茶を飲み、用意されていたお茶菓子をいただいた。



それから、15分後、私たちは、2人並んで散歩に出かけた。

土産物店が軒を連ねる商店街。

私たちは、温泉街特有の不思議なお土産が並んでいるのを見て、2人でキャッキャと笑い合う。

「企画部にこれ買ってくか?」

将軍さんが、よく分からないゆるキャラのストラップを手に取る。

「それ、絶対迷惑なやつじゃないですか〜!
 お土産は、無難に菓子折りでいいですよ。
 っていうか、お土産、いります?」

お土産を配るって事は、一緒に旅行に行きましたって宣言してるみたいで、ちょっと恥ずかしい。

付き合ってることをみんなが知ってるし、毎朝、一緒に出勤してるから、ほぼ同棲状態ってことも、分かってはいると思う。

それでも、2人きりで旅行に行きましたって知らせるのは、どうかと思う。

けれど、将軍さんは……

「いるよ。
 俺は、爽と出会って気づいたけど、独占欲が強いんだ。
 服部にも他のやつにも、何度でも爽は俺のだって言いふらしたい」

当然のように断言する。

「えぇ〜!?
 それって、恥ずかしすぎるんですけど……」

それだけ思ってくれるのは、すごく嬉しいんだけど……

「いいんだよ」

将軍さんは、すごく落ち着いた大人なのに、なぜか時々、子供みたいになる。

ふふふっ
かわいい……

「はいはい。
 じゃあ、無難なお菓子選びますよ。
 あんこが苦手な人がいるから、和菓子はやめましょうね」

そう言って、私が選んだのは、最近どこにでもあるカスタードクリームが入った蒸しケーキのようなお菓子。

小包装の包み紙には、かわいい絵と共に温泉の名前が印刷されている。

これなら、中身だけバラで配っても、どこに行ってきたのか、すぐに分かる。

私がレジで並んでいると、隣に並んでいた将軍さんが横からカードを出して、清算してくれる。

将軍さんは、カードを財布にしまうと、左手に買い物したビニール袋を持ち、右手は私の手を握って歩き出す。

将軍さんは、いつも、こうやってさらっと荷物を持ってくれる。

ふふっ
将軍さんってば、見た目だけじゃなくて、中身もイケメンなんだから……


私たちは、そのまま帰り道にある足湯に立ち寄る。

そこには、小さな東屋のような建物の中に、掘りごたつのようになった足湯がある。

「あっ……」

そこまで来て、ようやく私は気づいた。

私は、今日、白のハイネックのリブニットにネイビーのタータンチェックのロング丈のフレアスカートを合わせている。

そして、足元は黒タイツに黒のブーティ。

タイツじゃ、足湯には浸かれないし、東屋のみのこの足湯には、タイツを脱げるような脱衣スペースは設けられていない。

「将軍さん、ごめんなさい。
 私、ここで待ってるから、将軍さんだけ浸かって来て」

私はそう言うけれど……

将軍さんは、私の額をツンッと人差し指でつついた。

「爽、俺は、別に足湯に浸かりたいわけじゃない。爽と何かをしたいだけだよ。それは、ただ買い物をするだけでもいいし、のんびりと歩くだけでもいい。
 俺も、気づいてやれなくて悪かったな」

将軍さんは、私の頭をくしゃりと撫でて、そのまま自分の胸に抱き寄せた。

ふふふっ
足湯には入れなかったけど、こうして将軍さんと一緒にいられるだけでも、幸せだなぁ。

私たちは、12月の寒空の下、2人仲良く寄り添って、お互いの温もりを感じながら旅館へと戻った。


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