冷たい部長の甘い素顔【コミカライズ連載中】

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第59話 ガーデンウェディング

「せっかく来たんだから、お庭をお散歩していかない?」

私は将軍さんを誘った。

こんなに食べたら、少しは動かないと、絶対太るし。

幸いこのホテルは、見事な庭園が売りで、ガーデンウェディングが人気のホテルだ。

私たちは連れ立って、見事な秋晴れの空のもと、庭園へと向かった。

将軍さんと仲良く指を絡めて手を繋ぎ、ゆっくりと庭園を回る。

紅葉はまだ色づき始めたばかりで、見頃には程遠いけれど、美しく手入れされた庭には、見頃の花も咲いていて、穏やかな午後の時間が流れている。

私たちが庭を散歩していると、ちょうどチャペルから新郎新婦が現れて、ライスシャワーを浴びているのが見えた。

「幸せそうだね」

私たちは、微笑ましくその光景を遠くから眺めて、参列者の後ろを抜けて、その先へ行こうとした。

ところが、その時、

「爽!」

と喧騒の中から、私の名を呼ぶ声が聞こえた。


振り返ってよく見ると、そこで祝福されていたのは、新郎姿の元カレ。

遠目で新郎新婦としか認識してなかった彼らが、まさか知り合いだとは思わなかった。

ましてや、それが元カレなんて。

よりにもよって、何でこんなところで、しかもこんなタイミングで再会しちゃうの?

新郎が立ち止まって、私を凝視するので、何事かと参列者全員の視線が私に集まる。

「爽?」

心配そうに私を呼んだ将軍さんが、ぎゅっと握った手に力を込める。

いたたまれなくなった私は、将軍さんに

「大丈夫。何でもないの。行こ?」

と声を掛けて、歩を進めた。

「ああ」

と返事をしつつも、将軍さんは、心配そうに私を覗き込む。

私は、

「ほんとに大丈夫。
 後で説明するね」

と言って、繋いだ将軍さんの腕に、反対の手も掛けて、両手で将軍さんに触れた。

二度と会いたくなかった人に、こんな形で会うなんて……

でも、将軍さんと一緒だったから、まだ良かったのかもしれない。

1人だったら、きっともっといたたまれなかっただろう。



私たちは、それ以上、庭園にいたくなくて、そのまま庭園を後にして、ホテルのラウンジへと戻ってきた。

「コーヒーでも飲んで、少し落ち着こう」

と将軍さんが言うので、私たちはそこでコーヒーを頼んだ。

将軍さんは、まだ心配そうに私を見ている。

「さっきの人、8月に別れた元カレなの。
 まさかこんな所で会うとは思ってなかった」

ふぅぅっ
と私がため息をつくと、将軍さんはなおも心配そうにしている。

「もしかして、まだ未練がある?」

そう尋ねた将軍さんは、テーブルの上に置かれたコーヒーカップを握る私の手に、自分の重ねた。

驚いた私は、顔を上げて断言する。

「そんなこと、絶対にない!」

私はまっすぐ将軍さんを見つめる。

「未練もないし、もう恨みもない。
 あの時の別れがあったから、将軍さんと出会えたんだし。
 ただ、あの状況で呼び止められるのは、非常識すぎて、いたたまれないというか、恥ずかしすぎるというか……」

だって、隣には小柄でかわいい花嫁さんがいたのに。

純白のドレスを着て、幸せそうに微笑んでたはずの花嫁さんが、思いっきり私を睨みつけてた。

彼女は知ってるのかな?

自分が妊娠した時、二股を掛けられてたって。

どうせ結婚するなら、子供も生まれることだし、何も知らず、幸せになってくれた方がいいのに。
 
「まぁ、普通は見て見ぬ振りをするだろうけど……」

将軍さんも顔を曇らせる。

「でしょ?
 あり得ないよね?」

私が苦笑すると、将軍さんは、私の手を撫でながら、

「でも、俺はあの男に感謝しなきゃな」

と呟いた。


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