どうにもならない社長の秘密
エピローグ 2
なんとなく嫌な予感がして、足早に石塚の部屋に行ったけれど、彼はいなかった。
窓は開け話したままだったが、それはその日に限ったわけじゃない。彼の部屋はマンションの五階だったこともあり、そのせいか窓を閉め忘れいることも多かった。
だから気のせいかと思った。
人が来ていた様子も多分、なかったはず。確認しようにも、あの頃はスマートホンなんてなくて、たしか携帯電話も一般的なものではなかった時代だ。
夜、帰ってきた彼に聞くと朝から大学にいたと言っていたので、それを信じた。
『また窓が開いていたわよ』
『ああ、僕はまた閉め忘れてしまったんだね』
真珠がついたピンを見つけたのは、彼が亡くなって彼の家族と一緒に部屋を整理した時だった。
ピンの先に真珠が一粒だけついた髪飾り。和装にはとても似合いそうな――。
「素敵ね、髪飾り。真珠?」
「ええ、そうよ。もとは五個セットだったの。でも、ひとつは無くしてしまったの。随分前に」
石塚と藤村宗一は同じ大学の親友だった。
藤村と目の前にいる彼の妻は、学生時代に知り合ったという。
ということは石塚と彼女も当然、接点はあっただろう。
あの日に限り、開いていた窓はリビングだけじゃなかった。寝室の窓も開いていた。
風に揺れるカーテン。
あれは全てを消すためだった。
――私は仕返しをされたの? あなたに。
美鈴は笑い出しそうになった。
その様子をちらりと見た雪野は、コーヒーカップに手を伸ばし、七年前を思い出していた。
鏡原宗一郎が会いに来た時、髪の毛を拾った。
紫織と兄妹だと告げられて、ショックのあまり頭を抱えた時にハラリト落ちた髪だ。
それを元にして藤村宗一のDNA鑑定をした。
だから、あの子は藤村の子に違いないのに。
美鈴はどうして宗一郎は石塚の子だと嘘をついたのだろう?
「私はこれでよかったと思っているわ」
外の空を見つめながら、美鈴がそう言った。
「ええ、私もよ。あの子たちが幸せならそれで」
誰にでも秘密がある。
墓場まで持って行かなければならない秘密が。
ー 終 ー
窓は開け話したままだったが、それはその日に限ったわけじゃない。彼の部屋はマンションの五階だったこともあり、そのせいか窓を閉め忘れいることも多かった。
だから気のせいかと思った。
人が来ていた様子も多分、なかったはず。確認しようにも、あの頃はスマートホンなんてなくて、たしか携帯電話も一般的なものではなかった時代だ。
夜、帰ってきた彼に聞くと朝から大学にいたと言っていたので、それを信じた。
『また窓が開いていたわよ』
『ああ、僕はまた閉め忘れてしまったんだね』
真珠がついたピンを見つけたのは、彼が亡くなって彼の家族と一緒に部屋を整理した時だった。
ピンの先に真珠が一粒だけついた髪飾り。和装にはとても似合いそうな――。
「素敵ね、髪飾り。真珠?」
「ええ、そうよ。もとは五個セットだったの。でも、ひとつは無くしてしまったの。随分前に」
石塚と藤村宗一は同じ大学の親友だった。
藤村と目の前にいる彼の妻は、学生時代に知り合ったという。
ということは石塚と彼女も当然、接点はあっただろう。
あの日に限り、開いていた窓はリビングだけじゃなかった。寝室の窓も開いていた。
風に揺れるカーテン。
あれは全てを消すためだった。
――私は仕返しをされたの? あなたに。
美鈴は笑い出しそうになった。
その様子をちらりと見た雪野は、コーヒーカップに手を伸ばし、七年前を思い出していた。
鏡原宗一郎が会いに来た時、髪の毛を拾った。
紫織と兄妹だと告げられて、ショックのあまり頭を抱えた時にハラリト落ちた髪だ。
それを元にして藤村宗一のDNA鑑定をした。
だから、あの子は藤村の子に違いないのに。
美鈴はどうして宗一郎は石塚の子だと嘘をついたのだろう?
「私はこれでよかったと思っているわ」
外の空を見つめながら、美鈴がそう言った。
「ええ、私もよ。あの子たちが幸せならそれで」
誰にでも秘密がある。
墓場まで持って行かなければならない秘密が。
ー 終 ー
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