どうにもならない社長の秘密
第十二章 それを人は運命という 5
***
紫織の実家は登録してある。
その住所を頼りにタクシーに飛び乗った。
――どうか、どうか間に合ってくれ。
『藤乃屋』の看板を見て、タクシーから飛び降りた。
閉店中の札がかけられた店内に、紫織の姿が見えた。
開いていたガラス扉から聞こえた声。
「宗一郎と、私が、きょうだい?」
「あの時には、そんなこととても言えなかった。ふたりが引き寄せ合ったのは血のせいなのかしらと思ったわ」
――違う! 違うんだっ!
「違うんです! それは」
ハッとしたように振り返った紫織の母に訴えた。
「違うんです。兄妹ではなかったんです。わたしの母が養育費ほしさに嘘を。違うんです。兄妹じゃない」
「――宗一郎?」
「ごめん。紫織。ごめんな」
床に膝と両手をついた。
「すみません。全て母の嘘でした。藤村さんは俺の父親じゃない。いただいた養育費は一日でも早く返させて頂きます。すみません。本当にすみません。申し訳ありません」
――ここまでは考えていた。
謝って謝って。
それで、これから先――。
俺はどうしたらいいのだろう……。俺は。
「――宗一郎?」
抱え込むように宗一郎の背中に手をまわした紫織は、訳も分からずただ彼の背中を撫でた。
「宗一郎さん、顔をあげてください。もう少し詳しく事情を聞かせてる?」
屈んでそう声をかけた紫織の母の声色は、怒ってはいなかった。
「それで、お金を振り込んでくれていたのね? 宗一郎さん、顔をあげて、もう少し詳しく話を聞かせてくれる?」
ゆっくりと顔をあげた宗一郎は、それでも紫織の母の顔を見ることはできないのだろう。俯いたまま話をはじめた。
「俺の母親の嘘なんです。俺の本当の父親は石塚一郎という人で、俺が生まれる前に病気で死んだそうです。生活力のなかった母は、養育費ほしさに嘘をついて、藤村さんを利用したんです。母は言っていました。藤村さんを酔わせて部屋に連れ帰ったことはあったけれど実際はなにもなかったと」
「――そう。そうだったの」
「本当に、申し訳ありません」
紫織はただオロオロしながら宗一郎の隣で彼を抱くように背中に手を回していた。
妹ではなかったという安堵の思いと、彼が七年間迎えに来てくれなかった理由がおぼろげながらも見えてきた。
もうそれだけでも十分だったし、何よりも彼が可哀想で、いつしか涙を流していた。
でも、母は許してくれるのだろうか。
不安な思いで見上げると、母は笑っていた。
「よかったわ」
「お母さん?」
「ああ、良かった。そうなのね」
その声があまりに明るかったせいか、宗一郎も顔をあげた。
紫織の実家は登録してある。
その住所を頼りにタクシーに飛び乗った。
――どうか、どうか間に合ってくれ。
『藤乃屋』の看板を見て、タクシーから飛び降りた。
閉店中の札がかけられた店内に、紫織の姿が見えた。
開いていたガラス扉から聞こえた声。
「宗一郎と、私が、きょうだい?」
「あの時には、そんなこととても言えなかった。ふたりが引き寄せ合ったのは血のせいなのかしらと思ったわ」
――違う! 違うんだっ!
「違うんです! それは」
ハッとしたように振り返った紫織の母に訴えた。
「違うんです。兄妹ではなかったんです。わたしの母が養育費ほしさに嘘を。違うんです。兄妹じゃない」
「――宗一郎?」
「ごめん。紫織。ごめんな」
床に膝と両手をついた。
「すみません。全て母の嘘でした。藤村さんは俺の父親じゃない。いただいた養育費は一日でも早く返させて頂きます。すみません。本当にすみません。申し訳ありません」
――ここまでは考えていた。
謝って謝って。
それで、これから先――。
俺はどうしたらいいのだろう……。俺は。
「――宗一郎?」
抱え込むように宗一郎の背中に手をまわした紫織は、訳も分からずただ彼の背中を撫でた。
「宗一郎さん、顔をあげてください。もう少し詳しく事情を聞かせてる?」
屈んでそう声をかけた紫織の母の声色は、怒ってはいなかった。
「それで、お金を振り込んでくれていたのね? 宗一郎さん、顔をあげて、もう少し詳しく話を聞かせてくれる?」
ゆっくりと顔をあげた宗一郎は、それでも紫織の母の顔を見ることはできないのだろう。俯いたまま話をはじめた。
「俺の母親の嘘なんです。俺の本当の父親は石塚一郎という人で、俺が生まれる前に病気で死んだそうです。生活力のなかった母は、養育費ほしさに嘘をついて、藤村さんを利用したんです。母は言っていました。藤村さんを酔わせて部屋に連れ帰ったことはあったけれど実際はなにもなかったと」
「――そう。そうだったの」
「本当に、申し訳ありません」
紫織はただオロオロしながら宗一郎の隣で彼を抱くように背中に手を回していた。
妹ではなかったという安堵の思いと、彼が七年間迎えに来てくれなかった理由がおぼろげながらも見えてきた。
もうそれだけでも十分だったし、何よりも彼が可哀想で、いつしか涙を流していた。
でも、母は許してくれるのだろうか。
不安な思いで見上げると、母は笑っていた。
「よかったわ」
「お母さん?」
「ああ、良かった。そうなのね」
その声があまりに明るかったせいか、宗一郎も顔をあげた。
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