どうにもならない社長の秘密
第十一章 七年前の重い扉 1
金曜日。
宗一郎は出張でいない。
一泊で大阪のほうに行ってしまったから、今夜は紫織のマンションに彼は来ないし、ベッドはひとりで使う夜になる。
月曜からずっと一緒に夜を過ごしていたので、隣の胸の中で目を覚ますことに慣れ始めていた。
――寂しいなぁ。
「はぁ……」
だめだめ、集中しなきゃ。
今度こそ京都に帰るのだから、そんなことを言っていていけない。
それに彼は休みも取らずに頑張っているのだ。
――私も頑張らなきゃ。
そんなこんなで真面目に仕事をしていると、室井がひょっこりと顔を出した。
「集中してるなぁ」
「来週からお休みだから、やっておかないと。どうです課長は? しっかり休めましたか?」
室井は昨日まで休暇だった。
「まぁな。どこに行っても混んでいるから家で思う存分ごろごろしたよ」
そんな他愛もない話をしている時。ふとスマートホンが音を立てた。
見れば母からのメッセージである。
『紫織、お父さんが倒れて入院したの』
「えっ」
「なに?どうした?」
「父が倒れたって」と言いながら席を立った紫織は慌てて母に電話をかけた。
紫織の父は狭心症という持病を持っている。
「もしもし、お母さん?」
『ああ、紫織。ごめんなさいね、心配かけて』
「お父さん大丈夫なの?」
『もう大丈夫よ。安定しているわ。急に暑くなったから、注意はしていたんだけれど』
室井とも相談し、結局、紫織は早退してそのまま帰ることにした。新幹線を使えば二時間ちょっとで京都まで行ける。そこからタクシーを使えば三十分くらいで病院に行けるはず。
もともと来週からの休みに備えていたのでそれほど仕事に支障はない。取り急ぎ仕事の状況を室井に説明して、紫織は早退することにした。
「じゃあ、お願いします」
「ああ、お大事にな。気を付けて帰れよ」
「はい」
取る者もとりあえず駅に向かい、電車を乗り継ぎながら、やっぱり最初の予定通りに帰ればよかったと紫織は後悔した。
気が付けばいつもそうだ。幸せの絶頂の時に、奈落に落とされる。
――私、なにかいけないことをしたのかな。
どうか父の容体が安定していますようにと祈るような気持ちで外を見つめながら、泣きたくなった。
小さくスマートホンが音を立てた。
ハッとして見れば、母からではく、今度は宗一郎からのSNSだった。
『移動中、お土産を買ったよ』
続けて貼られた写真。
それは小さな宝石箱に見えた。
お礼と共に、父が倒れたので今京都に向かっていること。そして、容体は安定しているからそんなに心配しないでと返信する。
『そうか。それは心配だな。お大事に。なにかあったらいつでも連絡して』
ありがとうと送って、紫織は宗一郎を想った。
『愛してる。今度こそ結婚してくれ、紫織』
そう囁いた彼。
大阪から帰ってきたら、紫織と一緒に京都に行って両親に挨拶をしたいと彼は言っていた。
でもこの状態では無理だろう。
――やっぱり私たちは、縁がないのかな。
どうしてもそう思ってしまう。
宗一郎は出張でいない。
一泊で大阪のほうに行ってしまったから、今夜は紫織のマンションに彼は来ないし、ベッドはひとりで使う夜になる。
月曜からずっと一緒に夜を過ごしていたので、隣の胸の中で目を覚ますことに慣れ始めていた。
――寂しいなぁ。
「はぁ……」
だめだめ、集中しなきゃ。
今度こそ京都に帰るのだから、そんなことを言っていていけない。
それに彼は休みも取らずに頑張っているのだ。
――私も頑張らなきゃ。
そんなこんなで真面目に仕事をしていると、室井がひょっこりと顔を出した。
「集中してるなぁ」
「来週からお休みだから、やっておかないと。どうです課長は? しっかり休めましたか?」
室井は昨日まで休暇だった。
「まぁな。どこに行っても混んでいるから家で思う存分ごろごろしたよ」
そんな他愛もない話をしている時。ふとスマートホンが音を立てた。
見れば母からのメッセージである。
『紫織、お父さんが倒れて入院したの』
「えっ」
「なに?どうした?」
「父が倒れたって」と言いながら席を立った紫織は慌てて母に電話をかけた。
紫織の父は狭心症という持病を持っている。
「もしもし、お母さん?」
『ああ、紫織。ごめんなさいね、心配かけて』
「お父さん大丈夫なの?」
『もう大丈夫よ。安定しているわ。急に暑くなったから、注意はしていたんだけれど』
室井とも相談し、結局、紫織は早退してそのまま帰ることにした。新幹線を使えば二時間ちょっとで京都まで行ける。そこからタクシーを使えば三十分くらいで病院に行けるはず。
もともと来週からの休みに備えていたのでそれほど仕事に支障はない。取り急ぎ仕事の状況を室井に説明して、紫織は早退することにした。
「じゃあ、お願いします」
「ああ、お大事にな。気を付けて帰れよ」
「はい」
取る者もとりあえず駅に向かい、電車を乗り継ぎながら、やっぱり最初の予定通りに帰ればよかったと紫織は後悔した。
気が付けばいつもそうだ。幸せの絶頂の時に、奈落に落とされる。
――私、なにかいけないことをしたのかな。
どうか父の容体が安定していますようにと祈るような気持ちで外を見つめながら、泣きたくなった。
小さくスマートホンが音を立てた。
ハッとして見れば、母からではく、今度は宗一郎からのSNSだった。
『移動中、お土産を買ったよ』
続けて貼られた写真。
それは小さな宝石箱に見えた。
お礼と共に、父が倒れたので今京都に向かっていること。そして、容体は安定しているからそんなに心配しないでと返信する。
『そうか。それは心配だな。お大事に。なにかあったらいつでも連絡して』
ありがとうと送って、紫織は宗一郎を想った。
『愛してる。今度こそ結婚してくれ、紫織』
そう囁いた彼。
大阪から帰ってきたら、紫織と一緒に京都に行って両親に挨拶をしたいと彼は言っていた。
でもこの状態では無理だろう。
――やっぱり私たちは、縁がないのかな。
どうしてもそう思ってしまう。
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