どうにもならない社長の秘密

白亜凛

第九章 社長の秘密 4

「お客さんで来ていた社員もいるし、別に私も隠してはいないから、みんな知っているんだと思いますけど、会社のイメージが悪くなっちゃうといけないから、社外的にはキャバ嬢だったことは秘密ですよぉ。って今更か」
 そう言って光琉は明るくクスクス笑う。
「あはは。うん、わかった」

 屈託のないその笑顔が眩しくて、紫織は視線を泳がせた。

 家が窮地に陥って、彼女は自分に出来ることを見つけて頑張った。

 ――なのに私は。

 同じような状況にいても、オロオロする両親を見ながら何もできずにただジッとしていた。

 結婚で『藤乃屋』を助けるつもりではいたが、実際はぐずぐずと尻込みするだけだった。
 ひと回り以上歳が離れているとか、食事をする時のクチャクチャと音を立てる仕草がどうしても嫌だとか。口には出さなかったけれど、積極的に受け入れることはできずにいた。
 母がどうしてもと言うなら、その時は仕方がないと、ただジッとしていた。

 あの時、最初に話があった人と結婚していれば、『藤乃屋』は助かっていたかもしれない。
 そう。きっと間に合っていたに違いないのだ。自分から『私あの人と結婚したい』と言っていれば……。

 彼女は違う。光琉が紫織の立場なら笑って結婚しただろう。『心配しないで』と笑って。
 彼女ならきっと、そうしたに違いない。

 こんなふうに心配して、誰にも言わずそっと差し入れを持って手伝いに来てくれる気遣いや、見てみぬふりはしない、さりげない優しさ。

 彼女は頭が悪いと卑下するが、パソコンは紫織よりも使いこなしている。彼女の作る書類を見ても、頭が悪いはずはない。そればかりか接客や感じの良さは目を見張るものがあり、そもそもNo1は美人というだけでは取れるはずもないことは、キャバ嬢の経験がない紫織にも容易に想像ができる。

 好かれて当然。
 何もかもが自分にはないもので溢れている。

 そう思いながら食べたチャーハンは、光琉の優しさと紫織の心の涙の味がした。

 食べ終わると同時に自己嫌悪に居たたまれなくなって、紫織は席を立った。
「私、コーヒー入れてきますね」

 そんな紫織の後を追うように、光琉もまた席を立った。
「私も。ちょっと自分の席に行ってきますね」

「おう」

 紫織は喫茶コーナーがある下の階に。光琉は上の階に向かった。

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