どうにもならない社長の秘密
第九章 社長の秘密 1
「えー? 紫織さん行けないんですかぁ?」
「ごめんね、光琉ちゃん。皆で楽しんで」
週末は会社の飲み会だった。
全員が参加するわけではないが費用は会社負担である。金額に上限はあるものの上手くすれば自分のお財布を出さないで済むということもあって参加者は多い。
ごく一部の忙しい社員を残し、今日もほぼ全員が出席することになっていた。
紫織も行こうとは思っていたが、いまはもうそんな気分ではない。
それにちょうど、仕事も忙しかった。
「はぁーい。でもお手伝いしなくて大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫。室井課長が戻ったら手伝ってもらうから」
出来上がったパンフレットの最後のチェックで見つけてしまった日付のミス。シールを作って一年前の日付にしてしまった部分を今年に直さなければいけない。
紫織のミスだ。
このところ考え事が多かったという自覚があるだけに、なおさら自分の失敗が情けなかった。
今夜はむしろ飲み会でよかったと思う。
こんな時はひとりでいるほうが気が楽だと思いながら、紫織は誰もいない静かなフロアで、必要のない電気を消した。
スポットライトを浴びたように明るい会議用の広いテーブルに、パンフレットを積み上げた。
シールのシートに日付をプリントし、カッターで切ってペタリと貼る。
経験からいってひとりで作業すると五時間はかかる量だが、室井が戻ってきてくれれば、それ以降は半分の時間で済む。
でも、室井が戻ってくるかどうかはわからない。彼は今日出張していてその行き先は名古屋だ。
ミスのことは伝えていないので、直接家に帰るかもしれない。もし帰ると連絡があった時は、ミスの事は言わずにお疲れさまでしたと言うつもりでいた。
その時はひとりですればいい。
単純作業は、かえって気持ちを落ち着けてくれる。
だから丁度良かった。たとえ五時間かかろうと、そんなことは何の苦にもならない。
そんなことを思いながら、紫織は通勤の時にいつも聞いているポータブルプレイヤーを取り出して、百円SHOPで買った小さなスピーカーをセットした。
仕事中でも、こんな時なら許されるだろう。
スイッチを押すと早速歌が響いた。
決していい音とは言えないが、これでひとりでも寂しくはない。
数少ない紫織が使いこなしているこの電子機器は十年近く使っているので古い曲もそのまま沢山入っている。
流れはじめた曲はラブソングではなく、前へ進め、前へ進めと励まして否が応にも元気が出てくる明るい曲だった。
いつまでも落ち込んではいられない。
とにかくここを辞めることは決めたのだから。
あとは時期の問題だけ。
どんなにすぐに辞めたくても、手掛けている仕事を放り出すわけにはいかない。社会人として勤めは果たさなければ。
この都会でひとり、生きる意味。
散々考えたけれど、答えは出なかった。
ただ、自分らしくありたいと思った。
これ以上自分を嫌いにはなりたくない。
その為にもとにかくここを辞めて、それからのことは辞めたあとに考えようと決めた。
お盆に実家に帰れば、向こうで暮らそうと思うかもしれない。
そう思ったら心のまま、そうしようと。
夕べ、涙と一緒に心に疼く様々なものを全て流し出した。
体中の水分が無くなるほど泣きつくしたおかげで、心にはもうなんの迷いもない。からからに乾いてはいるが、なにもない分スッキリとしている。
前を向いて、次の未来に向かって進むだけ。
「~ららら♪」
時々歌ったりしながら三十分ほどした頃。
「あれ? どうした紫織」
室井が、帰ってきた。
「ごめんね、光琉ちゃん。皆で楽しんで」
週末は会社の飲み会だった。
全員が参加するわけではないが費用は会社負担である。金額に上限はあるものの上手くすれば自分のお財布を出さないで済むということもあって参加者は多い。
ごく一部の忙しい社員を残し、今日もほぼ全員が出席することになっていた。
紫織も行こうとは思っていたが、いまはもうそんな気分ではない。
それにちょうど、仕事も忙しかった。
「はぁーい。でもお手伝いしなくて大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫。室井課長が戻ったら手伝ってもらうから」
出来上がったパンフレットの最後のチェックで見つけてしまった日付のミス。シールを作って一年前の日付にしてしまった部分を今年に直さなければいけない。
紫織のミスだ。
このところ考え事が多かったという自覚があるだけに、なおさら自分の失敗が情けなかった。
今夜はむしろ飲み会でよかったと思う。
こんな時はひとりでいるほうが気が楽だと思いながら、紫織は誰もいない静かなフロアで、必要のない電気を消した。
スポットライトを浴びたように明るい会議用の広いテーブルに、パンフレットを積み上げた。
シールのシートに日付をプリントし、カッターで切ってペタリと貼る。
経験からいってひとりで作業すると五時間はかかる量だが、室井が戻ってきてくれれば、それ以降は半分の時間で済む。
でも、室井が戻ってくるかどうかはわからない。彼は今日出張していてその行き先は名古屋だ。
ミスのことは伝えていないので、直接家に帰るかもしれない。もし帰ると連絡があった時は、ミスの事は言わずにお疲れさまでしたと言うつもりでいた。
その時はひとりですればいい。
単純作業は、かえって気持ちを落ち着けてくれる。
だから丁度良かった。たとえ五時間かかろうと、そんなことは何の苦にもならない。
そんなことを思いながら、紫織は通勤の時にいつも聞いているポータブルプレイヤーを取り出して、百円SHOPで買った小さなスピーカーをセットした。
仕事中でも、こんな時なら許されるだろう。
スイッチを押すと早速歌が響いた。
決していい音とは言えないが、これでひとりでも寂しくはない。
数少ない紫織が使いこなしているこの電子機器は十年近く使っているので古い曲もそのまま沢山入っている。
流れはじめた曲はラブソングではなく、前へ進め、前へ進めと励まして否が応にも元気が出てくる明るい曲だった。
いつまでも落ち込んではいられない。
とにかくここを辞めることは決めたのだから。
あとは時期の問題だけ。
どんなにすぐに辞めたくても、手掛けている仕事を放り出すわけにはいかない。社会人として勤めは果たさなければ。
この都会でひとり、生きる意味。
散々考えたけれど、答えは出なかった。
ただ、自分らしくありたいと思った。
これ以上自分を嫌いにはなりたくない。
その為にもとにかくここを辞めて、それからのことは辞めたあとに考えようと決めた。
お盆に実家に帰れば、向こうで暮らそうと思うかもしれない。
そう思ったら心のまま、そうしようと。
夕べ、涙と一緒に心に疼く様々なものを全て流し出した。
体中の水分が無くなるほど泣きつくしたおかげで、心にはもうなんの迷いもない。からからに乾いてはいるが、なにもない分スッキリとしている。
前を向いて、次の未来に向かって進むだけ。
「~ららら♪」
時々歌ったりしながら三十分ほどした頃。
「あれ? どうした紫織」
室井が、帰ってきた。
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