どうにもならない社長の秘密
第八章 どうにもならない社長の事情 5
***
美由紀には学生時代から付き合っている恋人がいる。
「え? 結婚! おめでとう美由紀~」
「ありがとう紫織」
相手は紫織もよく知っていたが、実は先月、美由紀は正式にプロポーズをされていた。
そして結婚に向けての具体的な話が決まってきていたのだが、紫織がちょうど転職やらで大変な時期だったので、話を切り出すタイミングを見つけられずにいたのだ。
美由紀の恋人はすぐにでも入籍して、一緒に住みたいと言っていたし、それについては親も了承済みなのである。
でもそうするには問題があった。
彼の元に行くとなると、この部屋に残る紫織は家賃全額負担するか、別の同居人を見つけるか、もしくはどこかに引っ越しをしなければいけなくなる。
「え? 先に入籍して住むの?」
「うんそうなの。それでね、紫織。部屋なんだけど、彼の友人にマンションの空き部屋を持っている人がいてね。女性のひとり暮らしならそれほど部屋を汚すことはないだろうし、無償で貸していいっていう人がいるのよ」
「え? タダで?」
「そう、タダでいいんだって」
紫織にとって、その話はあまりにも突然だった。
結婚に引っ越しの話。
引っ越しの話にはさすがに動揺した。でもマンションの話を聞いて、ふと気づいた。それだけ急な告白になった理由は、彼女の思いやりに違いないということに。
ここ最近、宗一郎の愚痴ばかりこぼして彼女の話を聞いていなかった。あんな状況では結婚の話を切り出すことは到底できなかっただろう。
「すごい! そんなにいい話があるなら私、すぐ見てみたい。とにかく、おめでとう美由紀!」
「ありがとう…… 紫織。なんか紫織が大変な時なのに」
「全然!全然大変じゃないよー ごめんごめん美由紀、心配かけちゃって」
「いいんだよ…… そんなこといいんだよ」
自分が一番辛い時期を一緒に過ごした親友だ。
一緒にいてくれるだけでどれほど心強かったか。そんな美由紀の結婚の報告を先延ばしにさせてしまった自分が情けなくて、泣けてきた。
「ごめんね、美由紀。気を遣わせてしまって」
「紫織……。いやだ、泣かないでよ」
「だって、――これは、うれし泣きだよ、美由紀の幸せだもん」
うれしくても涙が出た。
喜びも悲しみも、寂しさも全て涙になって紫織の心から溢れた。
美由紀は美由紀で胸が一杯で。しまいに二人は、泣きながら笑った。
「アハハ。歳かな、最近涙もろくて」
「やだーもぉ。あはは」
美由紀には学生時代から付き合っている恋人がいる。
「え? 結婚! おめでとう美由紀~」
「ありがとう紫織」
相手は紫織もよく知っていたが、実は先月、美由紀は正式にプロポーズをされていた。
そして結婚に向けての具体的な話が決まってきていたのだが、紫織がちょうど転職やらで大変な時期だったので、話を切り出すタイミングを見つけられずにいたのだ。
美由紀の恋人はすぐにでも入籍して、一緒に住みたいと言っていたし、それについては親も了承済みなのである。
でもそうするには問題があった。
彼の元に行くとなると、この部屋に残る紫織は家賃全額負担するか、別の同居人を見つけるか、もしくはどこかに引っ越しをしなければいけなくなる。
「え? 先に入籍して住むの?」
「うんそうなの。それでね、紫織。部屋なんだけど、彼の友人にマンションの空き部屋を持っている人がいてね。女性のひとり暮らしならそれほど部屋を汚すことはないだろうし、無償で貸していいっていう人がいるのよ」
「え? タダで?」
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紫織にとって、その話はあまりにも突然だった。
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引っ越しの話にはさすがに動揺した。でもマンションの話を聞いて、ふと気づいた。それだけ急な告白になった理由は、彼女の思いやりに違いないということに。
ここ最近、宗一郎の愚痴ばかりこぼして彼女の話を聞いていなかった。あんな状況では結婚の話を切り出すことは到底できなかっただろう。
「すごい! そんなにいい話があるなら私、すぐ見てみたい。とにかく、おめでとう美由紀!」
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「全然!全然大変じゃないよー ごめんごめん美由紀、心配かけちゃって」
「いいんだよ…… そんなこといいんだよ」
自分が一番辛い時期を一緒に過ごした親友だ。
一緒にいてくれるだけでどれほど心強かったか。そんな美由紀の結婚の報告を先延ばしにさせてしまった自分が情けなくて、泣けてきた。
「ごめんね、美由紀。気を遣わせてしまって」
「紫織……。いやだ、泣かないでよ」
「だって、――これは、うれし泣きだよ、美由紀の幸せだもん」
うれしくても涙が出た。
喜びも悲しみも、寂しさも全て涙になって紫織の心から溢れた。
美由紀は美由紀で胸が一杯で。しまいに二人は、泣きながら笑った。
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