どうにもならない社長の秘密

白亜凛

第八章 どうにもならない社長の事情 4

「宗一郎?」

 最初は驚いていたが、見る見る美由紀の表情が険しくなっていく。
「何しに来たのよ」

「美由紀に…」

 バシッ
 宗一郎がそう言うやいなや、美由紀の平手打ちが飛んだ。

「――っ」
「宗一郎、あんたね、一体どこまで紫織を泣かせたら気が済むの!?いくらなんでもひどいじゃない!」

「……いや、あの」
「あんたと別れてから、紫織がどれだけ辛い想いをしてがんばって来たか、あんた知ってる? 毎日毎日遅くまで勉強して、何の苦労も知らずにいた紫織が……一生懸命がんばって…… どれだけ苦労したか――
 知る訳ないわよね、そうよ、知らないから紫織にヒドイ仕打ちが出来るんでしょうよ、大体ね!あの時だって――。まぁいいわ、あんたの会社に入ってから紫織は毎日のように泣いてるの! 知ってる???
 とにかく今度紫織を泣かせたら、私がただじゃおかないからね!」

 時折何かを言おうとして口を開けたものの、美由紀の剣幕に圧された宗一郎は声を出すこともできなかった。

 人生初の平手打ちを栞里からくらったばかりなのに、早くも二度目の平手打ち。でも今夜の平手打ちは痛みを感じる余裕もない。

 かんかんに怒ったままの美由紀は、そのままマンションの入り口に向かったが、
ハッとして我に返った宗一郎は後を追った。

「あ、美由紀! ちょっと待ってくれ」

 声をかけると、美由紀はくるりと振り返った。
「宗一郎、あんた紫織に申し訳ないって思ってる?」

 何についてかよくわからなかったが、申し訳ない気持ちでいっぱいであることに違いない。
 宗一郎は「ああ、もちろん」と、大きく頷いた。

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