どうにもならない社長の秘密

白亜凛

第八章 どうにもならない社長の事情 2

 ***


 ――なんとかしなければ。
 そう思いながら、宗一郎は足早に喫茶コーナーに向かった。

 いまならば紫織がいるはずだった。
 運が良ければひとりでいるだろう。

 紫織はいた。
 彼女はマシーンからコーヒーが出てくるのを待っていた。

 静かに進んでそっと声をかける。
「あの」

 紫織は驚いたように目を見開いて振り返った。
 一瞬にして瞳が暗く曇り、体も心も硬くしていくのが見てとれるようだった。

 その様子に頭を抱えたくなる。

「――なんでしょうか」
「し……、いや、藤村さん。あの、辞めるというのは?」

「あ、すいません。課長にはもう退職届を出してあるんですが。なるべく早く辞めますね」

「いや、その。別に辞めなくてもいいんじゃないかと」

 怪訝そうに紫織は眉をひそめた。

 それもそうだろうと思う。
 初日に『辞めてもらえると助かる』とメッセージを送ったのは自分なのだから。
「ごめん。いや、あの、あの時の」

「同情なら結構です。一日も早く見つけますのでご安心してください」
「ちょ!」

 聞く耳はないということなのだろう。
 無視するようにクルッと踵を返した紫織は、コーヒーを片手にスタスタと足早に廊下を進んでいく。

 彼女は全身で拒絶を表している。
 その様子に結構なショックを受けて思わず絶句した。

 それでも負けずに後を追ったが、彼女とすれ違いで現れた社員に声をかけられた。

「あ、社長、ちょうどよかった」
「え?」

「どうしてもわからないところがあって」
「いや、あの……」

「どうかしました?」

 視線の先に見える紫織は、もうエレベーターに乗っていて、扉が閉まっていくのが見えた。

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