どうにもならない社長の秘密

白亜凛

第三章 そんな偶然ならいらない 1

「眩しすぎて目が痛いです課長」

「ん? 今日は天気がいいからな。紫織、履歴書忘れずに持ってきたよな?」

「――はい。しっかり確認しました」

「俺が先週来た時も、形だけの面接だったし。心配するな」

「はい。でも。課長は輝かしい経歴の持ち主だから」

「え? 花マルの営業がか?」

 思わずクスッと笑うと、少しだけ肩のこわばりがとれた。

「仕事は仕事だ。どこだってそんなに変わらないさ」
「ええ? そうですかねぇ」

「喫茶コーナーなんてのもあるらしいぞ。飲み放題だってさ」
「すごーい」

 たわいもない会話で緊張をほぐしつつ、エントランスを進む。

 ロビーは吹き抜けの明るい空間で、ずっと上に見える天井から陽射しが燦々と降り注いでいる。
 凄いなぁと思いながら見上げると、首が痛くなった。

 受付で用件を伝えると、麗しい受付嬢が丁寧に頭を下げた。
 慌てて紫織も頭を下げる。
 花マル商事にはもちろん受付嬢なんていなかった。総務の紫織がインターホンに答え、お茶かコーヒーを出しただけ。

「五階の社長室へどうぞ」
「はい」

 素敵なオフィスビルに、綺麗な受付嬢。
 男性なら喜ぶだけかもしれないが、紫織の緊張感は増すばかりである。

 紫織の戸惑いを見てとったのか、女性は「エレベーターはあちらになります」と手を伸ばし、ニッコリと優しい笑みを見せた。

 示された方向を振り返ると、上半分が透明の小部屋があり、どうやらそれがエレベーターらしい。

 室井の見様見真似で、改札口のようなところにセキュリティカードを翳し、警備員の脇を進み、エレベーターに乗る。

「なんだか、すごいですね」

 そう言わずにはいられない程、なにもかもがデザイン性に富んだビルに圧倒されて、紫織の不安は募る一方だ。

 ――あまりにも。
 いくらなんでも、いままでの環境とはギャップがあり過ぎる。
 できることなら、このままUターンして帰りたい。

「大丈夫だ。取って食われたりはしないから」
 クスクスと笑って余裕を見せる室井の隣に立ち、紫織は不安の限りを含めた深いため息をついた。

「――はぁ」

 エレベーターの中からは、社内の様子がよく見えた。

 吹き抜けなのでロビーからも少しは見えたが、二階はオープンスペースが広がっている。点在する椅子とテーブルは、それぞれが違う形をしていた。
 なにもかもがかっこよくて、そこで談笑している社員たちも型通りのスーツを着ているわけでもなくて、まるで雑誌をみているような気持ちになる。

 三階四階はメインの仕事場のようだ。
 二階と同じようにお洒落な空間で、ほとんどの人がパソコンに向かっている。

 紫織が気になったのはそのスタイリッシュな雰囲気だけではない。

 彼らはどうみても若かった。

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