【書籍化】勤め先は社内恋愛がご法度ですが、再会した彼(上司)とまったり古民家ぐらしを始めます。
八月のいちばん長い日 5
デスクに戻ると、西尾さんが来ていた。その姿を見てなんともいえない安心感と、涙がこみあげてくる。
「あ、お疲れさま。打ち合わせだったの?」
「西尾さん…」
病院に寄ってくるということで、もしかして体調が悪いのかと心配したけれど顔色は悪くなさそうだった。
いつもと変わらない明るい声と、穏やかな表情を向けてくれるのが無性に嬉しい。
創太郎も同じなのか、いつもの穏やかな表情に戻っていた。
「どうしたの?二人ともなんだか疲れてない?」
西尾さんはオフィスを見回して何かを確認し、向かいの席をちらりと見て言った。
「あの二人がらみ?」
なんと言えばいいかわからず沈黙してしまったけれど、西尾さんはそれを肯定として受け止めたようだった。
「やっぱり。もっと仕事を減らせとか、ルーチンワークは嫌だから別のすごいプロジェクトに関わりたいとかそんな話?」
あの二人には困ったもんだわ、と西尾さんはため息をついた。
「そういう話ではなかったんですけど…」
「あ、じゃあ自分のミスが多いのは会社のシステムが使いにくいのが理由だから改善して欲しいとか?」
「西尾さん」
戸惑うあずみに助け船を出すように、創太郎がそばに来た。
周囲では、お昼に入るために席を立つ社員が増えてきている。
「今日はお弁当ですか?」
創太郎の質問が予想外だったらしく、西尾さんがきょとんとした。
「ううん、ちょっと今日は用意する余裕がなくて」
「じゃあちょうど良かった。僕がごちそうするので、この後三人でお昼どうですか」
創太郎がランチを食べる場所に選んだのは、一階にある、大きな窓が開放的な商談スペースだった。
正式に昼食スペースとして開放されている場所ではないので、お昼時の今は誰もいない。
創太郎は予約システムを使って、きっかり一時間このスペースを確保してあるらしい。
会社からほど近い、おばあさんの知り合いの割烹仕出し店に急ぎで届けてもらったという「ちょっとお高めのお弁当」がテーブルの上に載っていて、揚げ物とお出汁のとてもいい香りがしていた。
黒地にきれいな銀の木目が入った紙のふたには金箔が散らしてあり、会社のランチで食べるにはかなり気後れするような高級感を放っている。
「いいの?ほんとにごちそうになっちゃって」
「どうぞ。冷めないうちに食べてください」
あずみと西尾さんがふたを開けると、仕切られた弁当箱の中には天ぷらの盛り合わせ、すだちの輪切りをあしらったお造り、蛸と野菜の炊き合わせ、太刀魚や海老を焼いたものに、水菓子の赤肉メロンまで入っている。
ちなみにごはんは別添えで、こちらは刻み三つ葉の混ぜごはんだった。
「すごーい」
「美味しそう…」
三人そろっていただきますを言い、その後は各々無言になって、食べることに集中する。
旬の食材を使った料理はどれも業務用食材は使わず、素材からていねいに調理されたことがわかる味つけで、食欲がなかったはずなのに箸が止まらなくなる。
合間にいただく温かいほうじ茶がエアコンで冷えた胃と体に染み渡り、あずみは心が癒えるのを感じた。
「あ、お疲れさま。打ち合わせだったの?」
「西尾さん…」
病院に寄ってくるということで、もしかして体調が悪いのかと心配したけれど顔色は悪くなさそうだった。
いつもと変わらない明るい声と、穏やかな表情を向けてくれるのが無性に嬉しい。
創太郎も同じなのか、いつもの穏やかな表情に戻っていた。
「どうしたの?二人ともなんだか疲れてない?」
西尾さんはオフィスを見回して何かを確認し、向かいの席をちらりと見て言った。
「あの二人がらみ?」
なんと言えばいいかわからず沈黙してしまったけれど、西尾さんはそれを肯定として受け止めたようだった。
「やっぱり。もっと仕事を減らせとか、ルーチンワークは嫌だから別のすごいプロジェクトに関わりたいとかそんな話?」
あの二人には困ったもんだわ、と西尾さんはため息をついた。
「そういう話ではなかったんですけど…」
「あ、じゃあ自分のミスが多いのは会社のシステムが使いにくいのが理由だから改善して欲しいとか?」
「西尾さん」
戸惑うあずみに助け船を出すように、創太郎がそばに来た。
周囲では、お昼に入るために席を立つ社員が増えてきている。
「今日はお弁当ですか?」
創太郎の質問が予想外だったらしく、西尾さんがきょとんとした。
「ううん、ちょっと今日は用意する余裕がなくて」
「じゃあちょうど良かった。僕がごちそうするので、この後三人でお昼どうですか」
創太郎がランチを食べる場所に選んだのは、一階にある、大きな窓が開放的な商談スペースだった。
正式に昼食スペースとして開放されている場所ではないので、お昼時の今は誰もいない。
創太郎は予約システムを使って、きっかり一時間このスペースを確保してあるらしい。
会社からほど近い、おばあさんの知り合いの割烹仕出し店に急ぎで届けてもらったという「ちょっとお高めのお弁当」がテーブルの上に載っていて、揚げ物とお出汁のとてもいい香りがしていた。
黒地にきれいな銀の木目が入った紙のふたには金箔が散らしてあり、会社のランチで食べるにはかなり気後れするような高級感を放っている。
「いいの?ほんとにごちそうになっちゃって」
「どうぞ。冷めないうちに食べてください」
あずみと西尾さんがふたを開けると、仕切られた弁当箱の中には天ぷらの盛り合わせ、すだちの輪切りをあしらったお造り、蛸と野菜の炊き合わせ、太刀魚や海老を焼いたものに、水菓子の赤肉メロンまで入っている。
ちなみにごはんは別添えで、こちらは刻み三つ葉の混ぜごはんだった。
「すごーい」
「美味しそう…」
三人そろっていただきますを言い、その後は各々無言になって、食べることに集中する。
旬の食材を使った料理はどれも業務用食材は使わず、素材からていねいに調理されたことがわかる味つけで、食欲がなかったはずなのに箸が止まらなくなる。
合間にいただく温かいほうじ茶がエアコンで冷えた胃と体に染み渡り、あずみは心が癒えるのを感じた。
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