【書籍化】勤め先は社内恋愛がご法度ですが、再会した彼(上司)とまったり古民家ぐらしを始めます。
これからのこと、託されたもの 4
あずみとおばあさんの二人になった。にわかに部屋の中が静かになって、少し落ち着かない気持ちになる。
「創太郎とは、お付き合いしてるの?」
「え!」
いきなり聞かれて、あずみは動揺した声を出してしまった。
「隠さなくても大丈夫。そうなったら素敵っていうか、なんならそうなって欲しいと思っていたしね」
おばあさんはそう言って穏やかに笑い、窓の外を見つめた。
「聞いているかもしれないけれど、あの子の母親は少し難しい人でね。私の息子と結婚していたわけだけれど、息子にはあの人を受け止められるような包容力が足りなかったのよね。うまくいかなかったの」
創太郎のお母さんのことは、こちらに引っ越してきたばかりの時に本人から少し聞いただけだった。
創太郎の進路も、感情も、すべてをコントロールしようとしたお母さんだったという。
「創太郎が生まれてからは持ち直すかと思っていたんだけれど、そう簡単にはいかなかった。今でいうネグレクトみたいな育て方をしたり、その反動なのか逆に固執してみたり」
心の底にしまっておいた過去の記憶をゆっくりと、少しずつ言葉に置き換えていくような話し方だった。
「今はどうか知らないけれど、本が好きなのはその時の影響ね。放っておかれた時も、干渉され過ぎた時も、本があの子の逃げ場所だったの。うまくお友達も作れなかったみたいだしね」
幼い創太郎が部屋の隅でぽつんと座って、本を抱えているのが目に浮かぶ。
今なにか言葉を発したら、こらえている涙が流れてしまいそうで、あずみはあいづちを打てなかった。
「あの子が中学生の時にね」
肩がぴくりと反応する。中学生の時というと、あずみと創太郎が付き合っていたころの。
「あの子の母親が、急に創太郎を転校させたの。受験生で、年齢的にもいちばん多感な頃でしょう。結局それでいろいろ揉めて、離婚ね。創太郎にはつらい時期だったと思うわ」
創太郎のお母さんは『私はこんなに一生懸命やっているのに、批判されるんならもう良いです』とあっさり親権を譲って、それ以来創太郎はお母さんに会っていないらしい。
そこまで話し、おばあさんはあずみを見て微笑んだ。
「私があなたをあの家に住まわせたかったのはね、人を見る目というか、直観力に自信があったからよ」
「え、どういうことですか」
「創太郎の中には私みたいな肉親では埋められない空っぽの部分があって、それを埋められる人が現れたと思ったの」
ずいぶんと抽象的な言い方をする。あずみはどう返したらいいかわからず、おばあさんもそれ以上の説明をしなかった。
「あの、私…」
おばあさんの言葉の意味を理解したいと、問いを投げかけようとした時だった。
ドアがノックされ、返事も待たずにがちゃりと開く。
創太郎が帰ってきた。
「買ってきたよ、紅茶」
「あら、ありがとう」
おばあさんは白いホーローのケトルでお湯を沸かし、ケーキとタルトを銘々皿に取り分けてくれた。
「私は後でいただくわ。買ってきてくれてありがとう」
「また買ってきますね」
その後もたくさんおしゃべりをして、部屋の外から昼食を配膳する準備の音が聞こえ始めたころ、あずみと創太郎は部屋を後にした。
創太郎は一足先に車を出しに行き、エントランスまで見送りに来てくれたおばあさんはゆるゆるとあずみに手を振った。
「今日はありがとう」
「また遊びに来ます」
「創太郎のことよろしくね。そばにいてくれるだけでいいの」
あずみの目を穏やかに見つめながら言う。
そのまなざしに込められているのは信頼の感情だった。
「創太郎とは、お付き合いしてるの?」
「え!」
いきなり聞かれて、あずみは動揺した声を出してしまった。
「隠さなくても大丈夫。そうなったら素敵っていうか、なんならそうなって欲しいと思っていたしね」
おばあさんはそう言って穏やかに笑い、窓の外を見つめた。
「聞いているかもしれないけれど、あの子の母親は少し難しい人でね。私の息子と結婚していたわけだけれど、息子にはあの人を受け止められるような包容力が足りなかったのよね。うまくいかなかったの」
創太郎のお母さんのことは、こちらに引っ越してきたばかりの時に本人から少し聞いただけだった。
創太郎の進路も、感情も、すべてをコントロールしようとしたお母さんだったという。
「創太郎が生まれてからは持ち直すかと思っていたんだけれど、そう簡単にはいかなかった。今でいうネグレクトみたいな育て方をしたり、その反動なのか逆に固執してみたり」
心の底にしまっておいた過去の記憶をゆっくりと、少しずつ言葉に置き換えていくような話し方だった。
「今はどうか知らないけれど、本が好きなのはその時の影響ね。放っておかれた時も、干渉され過ぎた時も、本があの子の逃げ場所だったの。うまくお友達も作れなかったみたいだしね」
幼い創太郎が部屋の隅でぽつんと座って、本を抱えているのが目に浮かぶ。
今なにか言葉を発したら、こらえている涙が流れてしまいそうで、あずみはあいづちを打てなかった。
「あの子が中学生の時にね」
肩がぴくりと反応する。中学生の時というと、あずみと創太郎が付き合っていたころの。
「あの子の母親が、急に創太郎を転校させたの。受験生で、年齢的にもいちばん多感な頃でしょう。結局それでいろいろ揉めて、離婚ね。創太郎にはつらい時期だったと思うわ」
創太郎のお母さんは『私はこんなに一生懸命やっているのに、批判されるんならもう良いです』とあっさり親権を譲って、それ以来創太郎はお母さんに会っていないらしい。
そこまで話し、おばあさんはあずみを見て微笑んだ。
「私があなたをあの家に住まわせたかったのはね、人を見る目というか、直観力に自信があったからよ」
「え、どういうことですか」
「創太郎の中には私みたいな肉親では埋められない空っぽの部分があって、それを埋められる人が現れたと思ったの」
ずいぶんと抽象的な言い方をする。あずみはどう返したらいいかわからず、おばあさんもそれ以上の説明をしなかった。
「あの、私…」
おばあさんの言葉の意味を理解したいと、問いを投げかけようとした時だった。
ドアがノックされ、返事も待たずにがちゃりと開く。
創太郎が帰ってきた。
「買ってきたよ、紅茶」
「あら、ありがとう」
おばあさんは白いホーローのケトルでお湯を沸かし、ケーキとタルトを銘々皿に取り分けてくれた。
「私は後でいただくわ。買ってきてくれてありがとう」
「また買ってきますね」
その後もたくさんおしゃべりをして、部屋の外から昼食を配膳する準備の音が聞こえ始めたころ、あずみと創太郎は部屋を後にした。
創太郎は一足先に車を出しに行き、エントランスまで見送りに来てくれたおばあさんはゆるゆるとあずみに手を振った。
「今日はありがとう」
「また遊びに来ます」
「創太郎のことよろしくね。そばにいてくれるだけでいいの」
あずみの目を穏やかに見つめながら言う。
そのまなざしに込められているのは信頼の感情だった。
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コメント
梅川いろは
ブクマやPVが伸び悩んでいる中、みょうがさんからのコメントはとても励みになりました(ほんとに泣きました笑)。
物語はあともう少し続きまして、今月いっぱいで完結する予定です。
ぜひお付き合いください。
みょうが
ゆっくり書いて下さいね。楽しみに待ってます。
梅川いろは
みょうがさん、いつもありがとうございます‥!めちゃくちゃ嬉しいです。
みょうが
素敵