【書籍化】勤め先は社内恋愛がご法度ですが、再会した彼(上司)とまったり古民家ぐらしを始めます。

梅川いろは

箱庭の日々 2

 創太郎のおばあさんの入居している高齢者住宅に、お盆前の休日に一緒に顔を見に行かないかと誘われたのは、遅かった梅雨開け宣言から一週間ほど経った、8月初旬の朝のことだった。

「隣の市の街中にあるんだ。車で1時間くらいかな。お盆は友達と過ごすから帰らないって言ってて」

「そうなんだ。じゃあ今週の土日どっちかにする?」

 創太郎の様子を気にしつつ、明るい声であずみは言った。

 今日の彼は顔色があまり良くなかった。疲れているのだろうか。

 創太郎は夜にあずみと一緒じゃない時は、自室で遅くまで何かしているようだった。趣味で何かやっているのか、それとも違う何かなのかは、まだ聞けていない。

「いや、来週にしよう。今週は二人の時間にしたい」

「何かあった?」

「うん…俺から誘っておいてなんだけど、初めて街中に出かけるのがうちのおばあちゃんのところって、どうなのかと思った」

「え、全然気にしないよ!それより直接挨拶しておきたいし。行こう?」

「え、そう?じゃあ日曜にしようか」

「わかった、楽しみにしてるね」

 創太郎のおばあさんとはこの家に来てから何度かビデオ通話をさせてもらったけれど、直接会うのは6月に初めて会った時以来だった。

 二人の関係を説明するのが気恥ずかしい気もする。

(中学の時にお付き合いしてたって言ったら驚くよね、きっと)

「わ、もうこんな時間。私先に行くね」

 そうこうしているうちにもう出勤の時間になって、あずみは慌てて玄関に向かった。パンプスを履いてガラス戸を開け、外に飛び出す。

 今日の空は厚い雲がかかっているけれどそれほど湿気も感じず、むしろ清々しさを感じるくらいだった。

 仕事には、かなり慣れた。

 あずみの隣の席の西尾さんは、黙々と仕事をするタイプ。楽しいことがあったら雑談もするけれど、基本的には無言で集中して仕事に取り組んでいる時間が長かった。

 初日からおかしなメッセージを送りつけてきた寺本さんと、その隣の上杉さんは、集中している時間もそれなりにあるけれど、雑談が始まるとかなり長い。

 どうやら何かわからないことがあった時、チャットで担当者に確認したりリーダーの創太郎に聞いてみれば良いのに、かなりの時間二人でああでもないこうでもないと相談し合ってから、結局解決せずに他の人に頼るというパターンが多いようだった。

 会社に対する愚痴も多い。

「いくらなんでも忙しすぎる。部長にかけあって、今すぐに業務量を見直してもらうべきだ」と言っているのが聞こえるけれど、二人がそれを実行に移す気配はなかった。

(聞きたくないけど、声が大きいから耳に入ってきちゃうんだよね…)

 当然しゃべっているだけでは仕事が回らないので、二人のフォローを創太郎と西尾さんでしている。

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