【書籍化】勤め先は社内恋愛がご法度ですが、再会した彼(上司)とまったり古民家ぐらしを始めます。

梅川いろは

6章 箱庭の日々

 二人の関係を会社に隠さなければいけないということや、同僚におかしなメッセージをもらったことをのぞけば、あずみと創太郎の二人暮らしは順調そのものだった。

 休日は誰かと遭遇することのなさそうな隣県に出かけて観光をしたり、足湯に並んで入ったり、中学生の時には出来なかったような恋人らしいデートを楽しんだ。

 出かけない時は朝に掃除をした後、廊下のラタンの椅子に座って本を読んだり、タブレットで雑誌を眺めた。その後は昼食を軽めに済ませて夕食を早い時間に作り、お酒をゆっくり飲みながら映画を観たり、海外ドラマを何時間も延々と観ながら感想を言い合う。

 休日には必ず二人でごはんを作る。

 休みの日といえば泥のように眠って、体力と精神力の回復に務めていた前職の時と違い、今は気持ちに余裕があるので、スパイスを調合するところから始めてチキンカレーとナンを作ったり、手間のかかる料理を楽しめるのが嬉しい。

 中学時代に二人を結びつけた思い出のからあげも作った。若い二人の青春の思い出がからあげというのはおしゃれではないけれど、彼がとても喜んだので良しとする。

 あずみの実家のからあげは、市販の焼き肉のたれに漬け込んだ鶏もも肉を片栗粉で揚げるだけの超簡単レシピなので、「お母さんと同じ作り方なのになんか違う…」みたいなこともなく、自信を持って創太郎に「あの時のからあげはこれです」と出せるのがいい(レシピがシンプル過ぎて驚かれた)。

 この家の古い調理器具にも愛着がわいてきている。

 鉄のフライパンは使う前は油慣らしをして、使った後はたわしで洗ってから加熱して水分を飛ばし、油分を塗り込んで錆を防ぐという手順が必要だ。

 でもそれさえ守ればテフロンよりも断然料理の仕上がりが早く、しかも美味しく出来るのであずみは自分の料理の腕が上がったような気分になった。特に、オムレツ、しょうが焼き、野菜炒めはもうテフロンのフライパンには戻れないくらいに美味しく出来る。

 そんな日々の暮らしの合間を縫うようにキスをして、肌をさぐり合う。

 同じ時を過ごすはずだった10年間を取り戻そうとするかのようにあずみと創太郎は寄り添い、汗だくになりながら何度も何度も体を重ねた。

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