【書籍化】勤め先は社内恋愛がご法度ですが、再会した彼(上司)とまったり古民家ぐらしを始めます。

梅川いろは

社内恋愛がご法度というのは、いまどき人権問題だと思うのですが 9

 その朝はカーテン越しの夜明けの光と、野鳥の声がアラーム代わりだった。

「ん…」

 ぱちりと目が覚める。横を見ると、創太郎があどけない顔ですうすう眠っている。お互い何も着ないで眠ってしまったようだった。

 初めて彼と朝を迎えた時と同じように、あずみは彼の綺麗な寝顔を見つめた。昨日の朝は顔色が悪かったので心配したけれど、今日は何も問題なさそうだった。

 たたまれていたルームウェアにさっと首を通して着こむと、しなやかな腕につかまらないうちにベッドから抜け出す。

 起きた時に疲れていたらどうしようと思ったけれど、まったくそんなことはなく、むしろ頭も体もすっきりしていた。

 昨日の夜に心をじわじわ痛めつけていた嫌な気分は、すべてどこかへ行ってしまったような気分だった。

 たしかに同僚からは嫌がらせめいたことをされたし、なにより会社のばかげた慣習のために彼との関係を秘密にしなければならないことをプレッシャーに感じた。

 それと、会社では直属の上司になるとことを彼が伏せていたことにもちょっぴり腹が立っていたけれど。

 でも、今はどうにかなるだろう、なんとかしようという前向きな気持ちになっている。

 無地のタオルケットにくるまっていた彼がもぞもぞと動いた。どうやら目を覚ましたらしい。

「おはよう…」

 寝起きのくぐもった声で創太郎が言う。なんだか猫みたい、とあずみは思った。

「おはよう」

 あずみはそう言ってまだぼんやりしている彼に体を寄せると、頬にキスをした。

「ん…なに」

 何かを期待した創太郎に腕を引かれそうになるのをさっとかわす。

「…ありがとうの気持ち」

「え、どういうこと」

 創太郎はなかば無意識なのか、なおもあずみの体に触れようと手を伸ばしてくる。

 腰の横から胸にかけての曲線をするんと撫でられた。

「…だめ。もう本当に時間がないの」

 あずみは非情な気持ちで告げると、創太郎を置き去りにしてリビングに向かった。壁の時計で時刻を確認し、まだ早い時間だったことに安心した。

 家を出る前にこなさなければいけないあれやこれやを頭の中で組み立てる。

 シャワー。着替え。持ち物の確認。化粧。髪の毛のアレンジ。朝食。お弁当。片づけ。歯みがき。

 スマホで天気予報を確認すると、今日は一日快晴になるようだった。ということは、洗濯もしなければ。

「よし、今日も頑張ろう」

 日差しの出てきた窓に向かって思い切り伸びをして、あずみは浴室に向かった。

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