【書籍化】勤め先は社内恋愛がご法度ですが、再会した彼(上司)とまったり古民家ぐらしを始めます。

梅川いろは

社内恋愛がご法度というのは、いまどき人権問題だと思うのですが 8 ※R-15

 その予感は的中して、創太郎と夕食を済ませた後、シャワーを浴びたあずみは泥のようにリビングのソファに沈み込んだ。

 気分転換にドラマを観ようと思ってテレビをつけていたのに、内容が全く頭に入ってこない。仕方がないので、また時間のある時にでも観ることにして、テレビを消した。今は見逃し配信があるから録画もしなくて済むし、便利な世の中になったと思う。

 そういえば、創太郎はどこへ行ったのだろう。食事の後食器を洗ってくれて、その後は自室にいるのか姿が見えなかった。

 まだ彼が近くにいるとソワソワして落ち着かない。キスするのも緊張してしまう。
 
 今は疲れているせいか、無性に彼と肌を触れ合わせたいと思った。

 それでも彼の部屋に行くのは勇気がいる。こんな時、昔創太郎と付き合っていた自分はどうしていただろう。自分からキスをしたことはなかった気がするけれど。

(って、中学生の時のことは参考にならないよね)

 少しの間、抱きしめてくれたらそれでいい。

 あずみは思い切って、彼の部屋へ行くことにした。

 明りがともった廊下を進み、主寝室の入り口に着くと、ノックをする。

 すぐに「どうぞ」と返事があって、あずみはそっとドアを開けた。

 部屋の電気はついておらず、デスクの上の間接照明が淡いオレンジ色の光を放っていた。どうしたの、と聞かれたら何と答えたら良いのだろうと思ったけれど、彼は特に何も聞いてこなかった。

 PCで何か作業をしていたらしく、ブルーライトを最小限に抑えた赤っぽい画面が、ぼんやりと光っている。

 ワーキングチェアに腰かけたまま振り返った彼は、柔らかい笑みを浮かべてあずみを見つめていた。

 あずみは吸い寄せられるように、彼の方へ歩き出した。

 創太郎がおいで、というように両手を広げて迎え入れてくれる。それに甘えて、彼の腕の中にすっぽりと納まった。

 少年時代よりも広くなった肩幅。がっしりしているというわけではないけれど、しなやかな筋肉のついた胸や腕。

 もう一度シャワーを浴びたのか、お湯と石鹸の香りがした。

「疲れてる?」

 長い脚の間にあずみの体をゆるくはさむようにしながら手を握り、わずかに首をかしげて創太郎が問いかけてくる。小さい子にするような、優しく温かい声だった。

 あずみが頷くと、立ち上がってぎゅっと抱きしめてくれる。あずみも彼の背中に手を回した。

 お互いの体がぴったりと隙間なくくっついて彼の体温を感じると、胸につかえていたものがゆるく溶け出すような安心感がある。思わず深いため息をついた。

 しばらくお互いに無言でそうした後、創太郎が体を離し、屈むようにしてあずみの額におでこをこつんとぶつけた。

 あずみは目を閉じる。安心したせいか、急に眠気が来た。

「…創太郎君、昔と同じで、私の好きな匂いがする」

「えっ。汗くさいとかじゃなく?」

「創太郎君は汗かいてても全然くさくないから大丈夫」

 目を開けると視線がぶつかり、お互いに目を閉じる。自然な流れで唇が重なった。柔らかく、ぴったり唇を合わせるようなキス。

 唇から伝わった甘い痺れが胸のあたりまで広がった時、左手の手首を引っ張られた。

「…あ…」

 思わず声が漏れる。引っ張られたあずみの手は硬くなった場所に導かれ、布越しの彼の感触が伝わった。

 どうしてこんな風に触れさせたんだろう。考えると、あずみの中に困惑とも恥じらいともつかない感情が芽生えて、電気が走ったようになる。

 嫌じゃない。ただ、彼に求められているらしいという喜びと恥ずかしさがぐちゃぐちゃになって、何も言えなくなった。

 抱きしめて充電してもらうだけで十分だと思ってこの部屋に来たけれど、もうそれだけでは帰れない雰囲気だった。

 啄ばむようなキスの雨が降りかかり、流されてしまいそうになるのを必死でこらえてあずみは言った。

 覚えたばかりの行為は、まだ頻繁にするのがちょっと怖い。

「…ごめんなさい。今日はもう寝ようと思ってたの」

「うん。じゃあ一緒に寝よう」

「あ、でも、」

 創太郎はあずみをふわりと抱きあげると、ベッドへ運んだ。

 前にもそうしたように、後頭部を守るように手のひらを添えてあずみを寝かせる。

「あ…っ」

 首をゆるく噛まれ、甘い声が勝手に喉から出てしまう。

 わずかに残った理性を総動員し、彼の胸を押して抵抗めいたことをするけれど、抑え込まれて、敏感なところを攻められる。

 結局その夜は、体のすみずみまで飲み込まれてしまった。



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