【書籍化】勤め先は社内恋愛がご法度ですが、再会した彼(上司)とまったり古民家ぐらしを始めます。
社内恋愛がご法度というのは、いまどき人権問題だと思うのですが 6
道路側に植えられた欅の枝葉が、すぐそこにかかるぐらいに伸びている。
テラスに出れば、さわさわと葉擦れの音が聞こえそうだった。
「都会のお洒落なカフェのテラスみたい…!映えってやつですね」
「ね、映えだよね」
そんなことを言いながら、テーブルにそれぞれ飲み物とお弁当を広げる。いろいろと世間話をしつつ食事をしていると、不意に西尾さんが言った。
「牽制と匂わせのメッセージ、来た?寺本さんから」
寺本さんが牽制と匂わせとは、どういう意味だろうか。意味はわからなかったけれど、穏やかな話ではなさそうだった。
「…どういうことですか?」
「新しく若い女の子が入ってくるとね、寺本さんが『和玖君は私のものだから手を出すな』っていうのを匂わせる文面のメッセージを送るのよ、必ず」
「え、なんで…」 
「彼女、和玖君のことが好きでいろいろアプローチしてるけど、うまくいってないみたいなの」
ということは、寺本さんは同僚に気持ちを悟られるくらいの振る舞いをしているということになる。
もしかして、彼女は「社内恋愛はご法度」の話を知らないのだろうか。
「和玖君てあの通りのイケメンでしょ、かなりの。背も高いし、若いのにリーダー任されてて有望株だしね。だから寺本さんとしては誰かに取られないか不安でそういうことしちゃうのかも。まぁ、全く褒められた行為ではないんだけど」
同じチームの女性が創太郎を狙っているらしいと聞いて、あずみは落ち着かない気分になる。もともと緊張で下がり気味だった食欲がさらになくなってしまった。
午後からも仕事があるし今日は暑いので、体調を崩さないためにもしっかり食べなくてはいけないと思い直し、とりあえずサンドイッチの端をかじる。少しでも食べ進めれば食欲が出てくるかもしれない。
「ゴメン、初日からこんな変な話。仕事に関係ないし、陰口みたいで嫌だよね」
西尾さんはあずみの様子の変化に気がついたようだった。お弁当に詰められた白米をちょっとずつ食べながら、ばつが悪そうに言う。
「篠原さんの前に他の課からうちのグループに来た子がね、和玖君と気が合ったみたいで、本の話とかで盛り上がってたんだけど。あの二人…寺本さんと上杉さんに嫌がらせされて、病んじゃったんだ。その子が休職する前日に本人から聞いて、私、すごく後悔してて。考えたらおかしな事いろいろあったのに」
自分が来る前に、そんな不穏な出来事があったなんて、なんだか気分が悪くなってくる。
あずみは自販機で買った紅茶をごくりと飲んだ。
「その人…会社には何も言わなかったんですか?精神的な理由で休職ってことは、人事から慎重にカウンセリング受けますよね?何か職務上の原因がなかったかとか」
「うん…何度か面談したみたいなんだけど、言わなかったというか、言えなかったみたい。あくまでプライベートの悩みが原因ってことにしたらしくて。それくらい、あの二人が怖くなっちゃったみたいなの」
極端に気分が落ち込むことが続いて精神的に追い詰められた時、その原因となったものがもはや恐怖に感じることはよくあることだろうなとあずみは思った。
「それでね、次に新しい子が来たら早いうちから関係築いて守らなきゃって思ったんだ。完全に私のエゴなんだけどね。和玖君は優秀だけどちょっと鈍感ぽいし」
聞けば、その時西尾さんは自分の仕事をこなすので精一杯だったらしく、その人が悩みを打ち明けられるような関係を築けていなかったのだという。
会社に入ったばかりの人間に人間関係のデリケートな話をするのは、本来であれば自分の印象を悪くしかねないようなことだ。本当は話すことにかなり気が引けたに違いないけれど、あずみのことを心配してくれたことはありがたいと思った。
「私のこと、気遣ってくださってありがとうございます」
西尾さんに素直に気持ちを伝える。
「とりあえずですけど、和玖さんと話すときは少し慎重にしてみようと思います」
「うん。普通は同僚に対して全然そんな風にする必要ないから、納得はいかないけどね」
西尾さんはそう言い、辛気くさい空気をかえるように、良かったら明日も一緒にランチをしようと誘ってくれた。
「社食のサラダバーのことは聞いた?」
「いえ、聞いてないです」
「うちの会社がね、近隣の農家さんから野菜を買って、社食でサラダバーとして提供してるの。ランチを頼んだら無料でついてくるんだよ。お弁当がある時でも単品でつけられるからかなり重宝するんだ」
「それはいいですね。ランチの時って意識しないと野菜あまり摂れないですもんね」
その後はお互いの話をしているとあっという間に時間が経って、二人は慌ててテラスを後にした。
テラスに出れば、さわさわと葉擦れの音が聞こえそうだった。
「都会のお洒落なカフェのテラスみたい…!映えってやつですね」
「ね、映えだよね」
そんなことを言いながら、テーブルにそれぞれ飲み物とお弁当を広げる。いろいろと世間話をしつつ食事をしていると、不意に西尾さんが言った。
「牽制と匂わせのメッセージ、来た?寺本さんから」
寺本さんが牽制と匂わせとは、どういう意味だろうか。意味はわからなかったけれど、穏やかな話ではなさそうだった。
「…どういうことですか?」
「新しく若い女の子が入ってくるとね、寺本さんが『和玖君は私のものだから手を出すな』っていうのを匂わせる文面のメッセージを送るのよ、必ず」
「え、なんで…」 
「彼女、和玖君のことが好きでいろいろアプローチしてるけど、うまくいってないみたいなの」
ということは、寺本さんは同僚に気持ちを悟られるくらいの振る舞いをしているということになる。
もしかして、彼女は「社内恋愛はご法度」の話を知らないのだろうか。
「和玖君てあの通りのイケメンでしょ、かなりの。背も高いし、若いのにリーダー任されてて有望株だしね。だから寺本さんとしては誰かに取られないか不安でそういうことしちゃうのかも。まぁ、全く褒められた行為ではないんだけど」
同じチームの女性が創太郎を狙っているらしいと聞いて、あずみは落ち着かない気分になる。もともと緊張で下がり気味だった食欲がさらになくなってしまった。
午後からも仕事があるし今日は暑いので、体調を崩さないためにもしっかり食べなくてはいけないと思い直し、とりあえずサンドイッチの端をかじる。少しでも食べ進めれば食欲が出てくるかもしれない。
「ゴメン、初日からこんな変な話。仕事に関係ないし、陰口みたいで嫌だよね」
西尾さんはあずみの様子の変化に気がついたようだった。お弁当に詰められた白米をちょっとずつ食べながら、ばつが悪そうに言う。
「篠原さんの前に他の課からうちのグループに来た子がね、和玖君と気が合ったみたいで、本の話とかで盛り上がってたんだけど。あの二人…寺本さんと上杉さんに嫌がらせされて、病んじゃったんだ。その子が休職する前日に本人から聞いて、私、すごく後悔してて。考えたらおかしな事いろいろあったのに」
自分が来る前に、そんな不穏な出来事があったなんて、なんだか気分が悪くなってくる。
あずみは自販機で買った紅茶をごくりと飲んだ。
「その人…会社には何も言わなかったんですか?精神的な理由で休職ってことは、人事から慎重にカウンセリング受けますよね?何か職務上の原因がなかったかとか」
「うん…何度か面談したみたいなんだけど、言わなかったというか、言えなかったみたい。あくまでプライベートの悩みが原因ってことにしたらしくて。それくらい、あの二人が怖くなっちゃったみたいなの」
極端に気分が落ち込むことが続いて精神的に追い詰められた時、その原因となったものがもはや恐怖に感じることはよくあることだろうなとあずみは思った。
「それでね、次に新しい子が来たら早いうちから関係築いて守らなきゃって思ったんだ。完全に私のエゴなんだけどね。和玖君は優秀だけどちょっと鈍感ぽいし」
聞けば、その時西尾さんは自分の仕事をこなすので精一杯だったらしく、その人が悩みを打ち明けられるような関係を築けていなかったのだという。
会社に入ったばかりの人間に人間関係のデリケートな話をするのは、本来であれば自分の印象を悪くしかねないようなことだ。本当は話すことにかなり気が引けたに違いないけれど、あずみのことを心配してくれたことはありがたいと思った。
「私のこと、気遣ってくださってありがとうございます」
西尾さんに素直に気持ちを伝える。
「とりあえずですけど、和玖さんと話すときは少し慎重にしてみようと思います」
「うん。普通は同僚に対して全然そんな風にする必要ないから、納得はいかないけどね」
西尾さんはそう言い、辛気くさい空気をかえるように、良かったら明日も一緒にランチをしようと誘ってくれた。
「社食のサラダバーのことは聞いた?」
「いえ、聞いてないです」
「うちの会社がね、近隣の農家さんから野菜を買って、社食でサラダバーとして提供してるの。ランチを頼んだら無料でついてくるんだよ。お弁当がある時でも単品でつけられるからかなり重宝するんだ」
「それはいいですね。ランチの時って意識しないと野菜あまり摂れないですもんね」
その後はお互いの話をしているとあっという間に時間が経って、二人は慌ててテラスを後にした。
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