【書籍化】勤め先は社内恋愛がご法度ですが、再会した彼(上司)とまったり古民家ぐらしを始めます。
社内恋愛がご法度というのは、いまどき人権問題だと思うのですが 2
今日は初出勤だというのに、朝からどんよりと厚い雲が空にかかっていた。
天気予報では今年の梅雨明けは例年よりも遅くなりそうだと言っていて、癖毛のあずみは憂鬱になった。
家の中は電気をつけないと支度が出来ないほど薄暗い。
それでも昨日のうちに予報を確認していたので、あずみはかなり早く起きて支度をした。
髪の毛は癖毛が目立たないように、ヘアアイロンでランダムに巻いてワックスを馴染ませたあと、シニヨンにまとめる。
CCクリームで肌を整えてアイシャドウをまぶたに載せ、アイラインはとにかく細く。
眉毛はパウダーを使って手早くかつ丁寧に。マスカラをするかどうか迷って、やめておいた。今日の最高気温は30℃くらいになるらしいので、今あずみが使っているマスカラだと暑さと湿度で溶けてしまい、汚く見える可能性があった。
リップは塗りたいけど塗らない。ヤマノ化成のオフィス内では、マスク着用で仕事をしなければならないからだ。お気に入りのコーラル色のリップは、もうずいぶん長いこと使っていない気がする。
ゴールドの小ぶりなイヤリングを耳に着けて、とりあえずは完成だ。
「…よし。変じゃないよね」
鏡台で念入りに確認する。別に初出社だからといって気合を入れるつもりはないけれど、小綺麗にはしておきたいと思う。
服装はプチプラながらも高見えのする、レーヨン素材のクロップ丈タックパンツに、フレンチスリーブが華やかな白のブラウスを合わせる。
人事のメールにはオフィスカジュアルで、とだけ書いてあったけれど程度がわからなかったので、なるべくシンプルさと清潔感のある服装を心がけた。
朝食を済ませようと台所へ来ると、コーヒーの良い香りがした。ルームウェア姿の創太郎がダイニングテーブルに座ってのんびりアイスコーヒーを飲みながら、タブレットで朝刊を読んでいる。
「おはよう」
「…おはよう」
あずみが声をかけると、やや間があってからあいさつが返ってきた。なんだか、元気がない。
見ると少し顔色が悪いようだった。綺麗な涙袋の下には、わずかだがクマもある。
昨日寝る前にキスをしたらまた甘い雰囲気になりかけて、初出勤の前夜にとてもそんな気分になれないとあずみが拒んだ(夕方にもしたし、そんなに一日に何回もして大丈夫なのかという不安というか、罪悪感みたいなものもあった)ので、その後すぐに寝ていたとしたらそれなりに長い時間睡眠をとれたと思うのだけれど。
「寝不足?大丈夫?」
「いや、大丈夫。ちょっと夜ふかししただけだから。それより、篠原さんも飲む?アイスコーヒー」
「うん、いただこうかな。朝食用意するね」
創太郎がコーヒーを用意してくれている間に、あずみは昨晩洗ってからサラダスピナーで念入りに水切りした生野菜と、同じく軽く茹でておいたスナップエンドウを冷蔵庫から出し、夏らしいガラスの器に盛り付ける。
後はたまご系のおかずとパンを食べれば朝食としてはまずます良いかなと思っていたのだけれど。
「う。食欲がない…」
この後新しい職場に出勤して、着任の挨拶などもしなければならないのかと思うと、あがり症の気があるあずみは胃が口から出てきそうだった。
創太郎の顔色の悪さを心配したのはいいけれど、あずみも昨日はなかなか寝付けなかったのだ。
「大丈夫?緊張してるの?」
「うん…挨拶とか、つっかえたりして上手く言えなかったらどうしよう…」
それを彼に見られるかもしれないのも恥ずかしい。
「うちの会社の人、そんなこと気にする人たちじゃないから大丈夫だよ、たぶんだけど」
「みんな良い人ってこと?」
「うーん…まあそれもあるし、忙しくてそれどころじゃない人もいるし。というか、オフィスは田舎にあるけどそれなりに人数の多い会社だからね。部署のチーム内でしか挨拶しないと思うよ」
あずみと創太郎の勤務するヤマノ化成はいわゆる化学メーカーで、プラスチックなどの化学素材を開発、生産している。
最近だとAIを活用して、自社研究所の過去の実験結果や論文をデータ化した膨大な情報の中から新材料を開発する手がかりを効率的に探索する、マテリアルズ・インフォマティクスと呼ばれる新しい試みを国内で初めて取り入れたことで話題になっていた。
あずみはその商品部の中の、マーケティングチームの一つに配属が決まっている。
天気予報では今年の梅雨明けは例年よりも遅くなりそうだと言っていて、癖毛のあずみは憂鬱になった。
家の中は電気をつけないと支度が出来ないほど薄暗い。
それでも昨日のうちに予報を確認していたので、あずみはかなり早く起きて支度をした。
髪の毛は癖毛が目立たないように、ヘアアイロンでランダムに巻いてワックスを馴染ませたあと、シニヨンにまとめる。
CCクリームで肌を整えてアイシャドウをまぶたに載せ、アイラインはとにかく細く。
眉毛はパウダーを使って手早くかつ丁寧に。マスカラをするかどうか迷って、やめておいた。今日の最高気温は30℃くらいになるらしいので、今あずみが使っているマスカラだと暑さと湿度で溶けてしまい、汚く見える可能性があった。
リップは塗りたいけど塗らない。ヤマノ化成のオフィス内では、マスク着用で仕事をしなければならないからだ。お気に入りのコーラル色のリップは、もうずいぶん長いこと使っていない気がする。
ゴールドの小ぶりなイヤリングを耳に着けて、とりあえずは完成だ。
「…よし。変じゃないよね」
鏡台で念入りに確認する。別に初出社だからといって気合を入れるつもりはないけれど、小綺麗にはしておきたいと思う。
服装はプチプラながらも高見えのする、レーヨン素材のクロップ丈タックパンツに、フレンチスリーブが華やかな白のブラウスを合わせる。
人事のメールにはオフィスカジュアルで、とだけ書いてあったけれど程度がわからなかったので、なるべくシンプルさと清潔感のある服装を心がけた。
朝食を済ませようと台所へ来ると、コーヒーの良い香りがした。ルームウェア姿の創太郎がダイニングテーブルに座ってのんびりアイスコーヒーを飲みながら、タブレットで朝刊を読んでいる。
「おはよう」
「…おはよう」
あずみが声をかけると、やや間があってからあいさつが返ってきた。なんだか、元気がない。
見ると少し顔色が悪いようだった。綺麗な涙袋の下には、わずかだがクマもある。
昨日寝る前にキスをしたらまた甘い雰囲気になりかけて、初出勤の前夜にとてもそんな気分になれないとあずみが拒んだ(夕方にもしたし、そんなに一日に何回もして大丈夫なのかという不安というか、罪悪感みたいなものもあった)ので、その後すぐに寝ていたとしたらそれなりに長い時間睡眠をとれたと思うのだけれど。
「寝不足?大丈夫?」
「いや、大丈夫。ちょっと夜ふかししただけだから。それより、篠原さんも飲む?アイスコーヒー」
「うん、いただこうかな。朝食用意するね」
創太郎がコーヒーを用意してくれている間に、あずみは昨晩洗ってからサラダスピナーで念入りに水切りした生野菜と、同じく軽く茹でておいたスナップエンドウを冷蔵庫から出し、夏らしいガラスの器に盛り付ける。
後はたまご系のおかずとパンを食べれば朝食としてはまずます良いかなと思っていたのだけれど。
「う。食欲がない…」
この後新しい職場に出勤して、着任の挨拶などもしなければならないのかと思うと、あがり症の気があるあずみは胃が口から出てきそうだった。
創太郎の顔色の悪さを心配したのはいいけれど、あずみも昨日はなかなか寝付けなかったのだ。
「大丈夫?緊張してるの?」
「うん…挨拶とか、つっかえたりして上手く言えなかったらどうしよう…」
それを彼に見られるかもしれないのも恥ずかしい。
「うちの会社の人、そんなこと気にする人たちじゃないから大丈夫だよ、たぶんだけど」
「みんな良い人ってこと?」
「うーん…まあそれもあるし、忙しくてそれどころじゃない人もいるし。というか、オフィスは田舎にあるけどそれなりに人数の多い会社だからね。部署のチーム内でしか挨拶しないと思うよ」
あずみと創太郎の勤務するヤマノ化成はいわゆる化学メーカーで、プラスチックなどの化学素材を開発、生産している。
最近だとAIを活用して、自社研究所の過去の実験結果や論文をデータ化した膨大な情報の中から新材料を開発する手がかりを効率的に探索する、マテリアルズ・インフォマティクスと呼ばれる新しい試みを国内で初めて取り入れたことで話題になっていた。
あずみはその商品部の中の、マーケティングチームの一つに配属が決まっている。
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