【書籍化】勤め先は社内恋愛がご法度ですが、再会した彼(上司)とまったり古民家ぐらしを始めます。

梅川いろは

むさぼるけものと夏の夜 8

「お昼、用意してくれてたんだ?ありがとう」

「うん、おそばにしようと思って」

「いいね。じゃあ…俺が気合を入れて天ぷらを揚げます」

「え!いいの?大変じゃない?」

 あずみはからあげはまれに作るけれど、天ぷらは技術がないとだめな気がして、今まで作ったことがない。

 創太郎はスマホで天ぷらを揚げるための下調べをしてから、野菜を洗って、揚げ湯を熱している間に手早く下ごしらえした。

 衣を作って先ほどのナスやししとう、あずみが採ってきた大葉を天ぷら鍋に入れてはどんどん揚げていく。

 油のはじける小気味良い音と、食欲をそそる香りがキッチンに立ち込めた。

 最新式の換気扇とこの家の風通しの良さのおかげで、揚げ物をしていても部屋の中が暑くならないのが素晴らしい。

 創太郎が天ぷらを作ると言い出した時は驚いたけれど、まだこの家にも彼にも完全には慣れていないあずみを彼なりに気遣ってくれたのだろうと思うと、その優しさに胸がきゅうっとして、面映おもはゆい気持ちになる。

 あずみはそばつゆを用意した後、大根でおろし天つゆを別に作ってから彼の隣でそばを茹で、箸やそば猪口を準備して食卓を整えた。

 創太郎が人生で初めて揚げたという天ぷらはさっくり揚がっていてとても美味しく、一口食べた瞬間に二人とも目を瞠った。

 彼と一緒に食事を作るのも、食べるのも、とても楽しい。この先何度もそんな機会があるのだと思うと、あずみはとても幸せな気持ちになった。




 

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