【書籍化】勤め先は社内恋愛がご法度ですが、再会した彼(上司)とまったり古民家ぐらしを始めます。

梅川いろは

むさぼるけものと夏の夜 5

「ん…」

 明け方のあわく黄色い光を感じて、あずみは目を覚ました。
 
「…!」 

 裸で創太郎と抱き合って眠っていたことに、今更ながらびっくりする。

 梅雨時期の合間の晴れの時間帯なのか、外はかなり明るくなってきていた。このままでは明るい光の中で裸を見られてしまう。

(ワンピース、どこ…)

 体をがっちりと彼に拘束されたように抱きすくめられていて、体を起こせない。

 あずみは創太郎の枕元に、昨日着ていたのワンピースタイプのルームウェアが綺麗にたたまれて置かれているのを発見した。手を伸ばそうと思ったけれど、あずみを抱きしめる創太郎の腕はびくともしない。

(ぐっすり眠ってるみたいだし、ちょっと力を入れても大丈夫だよね…?)

 よいしょ、と心の中で気合を入れて、体重をかけないようにしつつ、創太郎の上に覆いかぶさる形で体を起こした。

 ひやひやしながら、体の下にいる創太郎の様子をうかがう。長いまつ毛で縁取られたまぶたはぴたりと閉じられている。

 男の人にしては白く滑らかな肌。きりりと完璧に整った眉毛はおそらく剃ったり抜いたりはしていない、天然のもの。

(わ、寝顔きれい…)

そう思って一瞬見とれたのが間違いだった。

「きゃ…っ!?」

 天地が逆転して、あずみは創太郎に組み敷かれていた。

「何コソコソしてるの?」

 創太郎は天井を背にして、少しだけ不機嫌そうにあずみを見下ろしている。

 寝起きでも彼の顔はすごく整っているのに、頭の片側だけ寝癖が激しくついていた。

 この人と、私は昨日。

 そんなことをぼんやりと思った後、急にあずみは我に返った。自分は今、何も身につけていないのだった。

「み、見ないで」

「…何をいまさら」

 創太郎は朝が弱いタイプなのか、テンションが低かった。

「明るくて恥ずかしいの!とりあえず服着たい」

「昨日だって明るかったよ?カーテン開けてて、夜は雲が少なかったから月明かりもあって」

「ウソ!?」

 気がつかなかった。羞恥心がみるみるこみ上げてきて、真っ赤になってしまう。

「もうっ、恥ずかしいよ…!そっちのワンピース、取ってもらえる?」

 あずみがお願いすると、創太郎は素直にワンピースを取ってくれた。

「あ、ありがとう」

「気にすることないのに」

 創太郎はなぜあずみがそんなに恥ずかしがるのか、理解できないという顔だった。

「気にするよ!恥ずかしいものは恥ずかしいんだってば…!」

 なかなかわかってもらえないのがもどかしい。ちょっと強めの口調になってしまった。

 あずみがこんなに一生懸命訴えているのに、創太郎はさらに燃料を投下してきた。

「いやほんと、服着てる時から思ってたけど、細いのに意外と出るとこ出ててエロい体つきだったし」

「もー!やめて!」

「いや、エロいというか、なんなら卑猥ひわいって表現の方が正しいか…?」

「ちょっと!?何言ってるの!?」

「声も頑張って我慢してたけど、次から我慢しなくて良いよ。周りは畑と山ばっかりで隣の家まで遠いし、窓開いてても誰にも聞こえないよ」

「…!」

ようやく確信した。

これはもうあずみが恥ずかしがっているのを面白がって、わざと言っている。

(無表情で淡々と言ってるけど、だまされない…!)

 その証拠に、あずみがきっ!とにらむと、彼は満足そうに微笑んでいる。

 鉄拳制裁!とばかりにあずみは枕を創太郎の顔にぼふ、と押し付けた。

 枕の下から「ごめん、調子に乗りました」とくぐもった声が聞こえたけれど、あずみはそれをふん、と捨て置いてワンピースを着ることにする。

 それなのに、創太郎はあずみの手からそれをぱっと奪うと、早業はやわざで綺麗にたたみ直して、あずみの手の届かないところに置いてしまった。

「え!返し…んぅ」

 抗議の言葉は強引で性急なキスにはばまれた。

 お互いの歯がぶつかるほど、荒々しい口づけ。

 下唇を甘噛みされた後に上唇をちゅ、と吸われて、体の奥がふるりと震えるような感覚になる。

 そうして散々貪られた後、湿った音を立てて唇が離れた。

「…」

 頭がぼうっとして、何も考えられない。

 お互い無言の間が少しの間続いて、創太郎がぽつりと言った。

「ごめん、かわいくてちょっと限界だった」

 彼の目元には困惑の色が滲(にじ)んでいる。


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