故郷

文戸玲

追憶②


 啓介は,良い道具を持っているばかりではなく運動神経や勉強もすこぶるできた。同じ校区に住んできたため必然的に同じ小学校へと進学したのだが,啓介の存在感は群を抜いていた。小学生と言えば足が速いだけでスーパーヒーローだ。学年で一番の走力を持った上に体操教室やフィギアスケート,ダンスの習い事をこなしていた彼の右に出る者はいなかった。ただ通っていただけの子供ならいくらかいたし,それこそ啓介に影響を受けて習い事を始めた子供もいた。ただ,生まれながらにして超えられない壁というものがあるのだということを痛感させられる圧倒的な壁というものを感じた。運動会の創作ダンスで行ったステップのキレや身のこなし,騎馬の上で躍動する姿は小学生離れしていた。かと言って傲慢なガキ大将として偉そうに振舞うようなことは絶対に無く,何かクラスで代表を決めるようなことがあれば推薦され,同級生からの信頼も厚かった。
 啓介は大切にされていた。そして,裕福だった。服のセンスも良いのだろうが,着こなしが上手なだけではなく毎日のように新しい服を着ていた。ハイブランドのキャップやスニーカーを季節ごとに身に付け,ブレスレットやネックレスも控えめでありながら高級感を感じさせるものを服装や状況に合わせてアクセントとして取り入れていた。
 母の口から啓介の名前が出たので,昔のことがまざまざと脳裏に浮かんできた。中学校一年生の途中でおれが父の仕事の都合で引っ越しでこの町を出て行ってからは一切顔を合わせていなかった。五年前に小学校の同窓会で集まった時に啓介の顔を見た時は,さらに優秀で聡明そうにな顔つきと雰囲気を醸し出していた。それっきりだった。稲妻のようにかつてのことを思い出し,おれはすぐに啓介のことについて尋ねた。

「懐かしいな。で,今啓介はどうしてるの?」
「どうもこうも,何をしているかまでは聞いていないけど,ずいぶんな身分になったんじゃない? 土地も家も,すごいのが建つみたいだよ。あんたの方が知っているだろうに」

そう言って母は向こうへ目をやった。

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