DESPERADO(デスペラード)

HIRo

Chapter 1 [髑髏の狩人]

西暦2030年4月1日。
あの事件から3ヵ月が経った頃、
雲ひとつない大空の下、妖魔に追われる一人と一匹の姿があった。

「もお!サンペーが死体にビビって大声出すからぁ!」
「しゃーないやろ生理現象みたいなもんなんやさかい!」
「あんたパンダのくせに難しい言葉知ってんな!もしかしてウチよりも頭よかったり?」
「無駄口叩いてやんと脚動かせ脚ィ!」

全長10mは有に越える妖魔に気づかれたリッカとサンペーは、廃墟となった都内を必死に駆け回る。

「お!あそこ曲がったら確か狭い通路があったでぇリッカァ!」

二人が曲がり角を曲がると、まさかの行き止まりだった。

「...もしウチら生きてたらあとで絶対しばく。」
「テヘペロ★」
「もう激おこプッツン丸やわ...てかどないすんのこれええぇぇえ!!!」

絶体絶命のリッカとサンペー。
人生の終わりを悟り、半ば諦めかけていたそのとき、これまでに感じたことのない寒気に襲われる。

「な、なにこれ...脚が動かへん!」

二人は感覚で目の前の妖魔によるものではないと理解した。絶対的な力を肌で感じていたのだ。

「...来るで!」

サンペーが野生の直感で感じとった
次の瞬間、物凄い速さで赤い雷のような光が妖魔の頭上めがけて落下し、妖魔ごと辺り一面が衝撃により爆散した。

「うわああああぁああ!!」

凄まじい爆風と土煙で視界を奪われる二人。
しばらく経つと、次第に土煙が晴れていき、現れた目の前の光景に二人は絶句する。

そこに妖魔の姿は無く、爆発が起こったかのような焦げ跡が辺り一面に広がっており、中央に何者かがたたずんでいた。

二メートルは有に越える巨体、血のように真っ赤な羽織、髑髏を模した顔面という誰もが衝撃の余り絶句する見た目をしたその男は、二人に気づきこちらを睨み付ける。

「おめえらぁ、怪我ァねえか?」

突然の質問に二人は我に帰り、反射的に応答する。

「ひゃい!!?!」

「ひゃいってどっちだぁ!シャキッとしやがれぇええい!!」

「はい!無傷です!!」
二人は男の恐ろしい外見にビビりながらも、半泣きで必死に答えた。

「よぉし。オレはジャック。聞くがおめえさんらぁ、狩人か?(パンダが喋ってやがる...!!)」

ジャックと名乗る大男は二人に尋ねる。
「かりうど?ってなに?アンタはそのかりうどなん?」
キョトンと首を傾げるリッカ。

「...どぉやら、何も知らねーようだなぁおめえさんら。逃げ遅れた一般人てところか。一方は獣だが。可哀想になぁ。」

ジャックの言葉を聞いたリッカが反発するかのように口を開いた。
「...ちがう」

「なにぃ?」ギロ

「逃げ遅れたんやない、逃げんかったんや!」

「どーゆーこったぁそりゃぁ?」

ジャックが尋ねると、さっきまでの怖じけようからは一転し、リッカは堂々と答えた。
 
「ウチらは自分の意思でここに残ったんや。避難なんてまっぴらや!なんで住んどったウチらがいきなり涌いてきたバケモンなんぞに居場所空け渡さなアカンねん!」

「ほおぅ...死ぬことになってもか?」

「それでもや!ウチに逃げるの文字はない!」

「さっき逃げてたじゃぁねーか」

「あ..あぁあれは逃げたんとちゃう!今日は調子が悪かったんや!戦術的撤退や!////てかウチらのこと気付いてたんやんやっぱり!!」
顔を真っ赤にしてリッカは必死に弁明する。

「ブゥルラッハッハッハ!!むちゃくちゃだなぁおめえさんはよお。変わった娘だが、おめえさんの覚悟、気に入った。本来ならこのままオサラバだが、気が変わった。どーだおめえさんら。オレと来るか?かくまってやる。」

「なっ!!?」

ジャックの予想外の提案に二人は動揺した。が、先ほどまでダンマリをキメていたサンペーがいきなり口を開いた。

「宜しくお願いしまああぁあす!」
サンペーの思いもよらぬ返答に
驚きを隠せぬリッカ。

「ちょちょちょちょっと待ちいなサンペー!」

「リッカ!これはまたとない機会やで!ワイら二人だけで今後またさっきみたいなデカイバケモンと出くわしたら今度こそオダブツや。ここは素直になるべきやでぇ!」

サンペーの言葉が突き刺さった。
リッカ自身、これまで内心後悔と不安を感じずにはいられなかった。信念を優先し東京に残ったはいいものの、妖魔に気付かれぬよう息を潜めての生活をするに連れ、その決断が如何に愚かで無謀なものであったのかを突きつけられ、その心の疲労をサンペーは感じとっていた。
ジャックの提案に正直彼女は
安堵していたのだ。

「そこのパンダの言う通りだ。今まで妖魔の目を盗んで生きてきたんだろうが、そう幸運は長くは続かん。必ずどこかで限界は来る。それが今日だったってワケだ。」

リッカは深く深呼吸をし、決心した。

「...わかった。お世話になります!ジャック、いや親分!自己紹介がまだやったな、ウチはリッカ!んでこっちのパンダがサンペー!」
「宜しく頼んますジャックはん!」

「リッカにサンペーか...いい返事だ。
てか誰が親分だぁ!」

「あ!でもいっこだけ言わせて!」
リッカが慌てて提案を持ち掛ける。

「ウチを、バケモンと闘えるように鍛えて欲しいねん!養ってもらうだけやと肩身が狭いからな!手助けってカタチで恩返ししたいねん。勿論家事とか雑用があるならやる!こう見えてウチ料理は得意やねんで!
どお?」

「フッ おめえさんならそー言うと思ったぜぇ。いいだろう。シゴキまわしてやるから覚悟しておけぃ。だが、飯に関しては問題ねえ。既にとびきり腕のたつのが居る。」

「え!?他に誰かいてんの?」

「来れば分かる。腹も減ったしそろそろ行くかぁ。さっき派手にやっちまったからなぁ。そのうち妖魔がまた涌いてくるかも知れん。オレに掴まれええぃ!」

こうして、思わぬ収穫を得たジャックは二人をのせてアジトへと向かう。
後に起こるトラブルによって、三人がピンチに陥ることなど、このときはまだ誰も
知るよしも無かった。

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