クラスメイトは魔法少女。俺、黒幕。

わーたん

頑張って、グレンさん。

「というわけで、交戦まで5時間ですが、私達にとっては初めてのプログラムになりますから、迅速に行動して抜かりないように実行しましょう」



アネットさんはみんなを鼓舞するように頑張りましょう、頑張りましょうと不安な顔が気になったのか、俺の肩に軽く手を置きつつ、みんなに声を掛ける。





「ソウネ。秘密月謝ダークセンチュリーの記念すべき初仕事ヨ! マオー、きっちりたのみマスヨ!」



ヤンさんチャイナドレスの裾をぺろーんとめくれているのを全く気にすることなく、鼻息を荒くして月謝月謝と連呼している。



お稽古に行くんじゃないんだから。



「ヤンさん。秘密結社ですよ。お稽古に行くのではないのですから」



アネットさんが冷静に突っ込んだ。





「オー! そうでした、そうでした! 秘密月謝デシタネー。日本語難しいデスヨ」



嘘つけ。日本語ペラペラなくせして。絶対わざとでしょ。



「魔王様。交戦する場所だけ決めておきましょうか」



「そっか。場所は、魔王の一存なんだっけ」



「はい。一応この近辺の地図を用意しましたので、参考にして下さい」



アネットさんが広げた地図には、樺羅杜学園を中心とした周辺の地図だ。



東には駅。さらに、ヤンさんのお店がある。



南には野球場やアーティストがライブをする、文化会館。様々なイベント会場がある。



西には多くの人が集まるショッピングモール、アミューズメント施設がある。



俺が目を付けたのは、北。そこには、多少暴れても大丈夫そうな、大きな公園があった。



「マオー、ナカナカいい判断デスネ。コノコノ」



ヤンさん、いちいち小突くな。



「グレンさんは、魔法の熟練度はどの辺りまで?」



「今のところ、悪系の魔法は初級まで一通り」



「そうですか。それなら初交戦となる魔法少女達にもちょうどいいですね」



うわあ。それっぽい会話してる。



「それでは、18時ちょうどに、グレンさんは記念公園の真ん中で、ダークボールの魔法を空に向かって放って下さい。それで、緊急アラームを発生させます。そうすれば、魔法少女達がすぐさま駆け付けるでしょう。その流れのまま、交戦となります」



「アネットはん。とりあえず、本気で交戦してよろしいので?」



「ええ。しかし、不慮の事態に陥っても、魔法少女達の命だけは間違っても奪わないように。その点だけを留意して頂ければ、あとは好き放題暴れて結構です。悪役らしくお願いしますよ」



「わっかりやした。それじゃあわては、時間まで隣の部屋で待機させてもらいますわ」



18時からの初交戦について段取りがとれたところでグレンさんは、休憩室へと向かっていった。



「アタシは店を覗いてから、車を用意してクルヨ。建物の裏に回しておきマスネ」



「はい。ヤンさん、お願いします」



ヤンさんも扇子を閉じながら、モニター室を後にした。



「魔王様は、魔法の勉強でもして頂きましょうか。とりあえず、前魔王様の屋敷の書物を借り受けてきましたので」



アネットさんがテーブルに置いたのは、百科辞典より大きく厚い、魔王専用の魔王参考書。



その数、10冊以上。



「さて、魔王様。どうして私達、魔族が魔法少女達の育成を行うか分かりますか?」



それは、究極の質問だった。答えはなんとなく理解しているけど、アネットさんの深い瞳を見ると、答えが言葉に出来ない。



「1000年前の大戦で、魔族は人間の前屈した。それは単なる結果ですが、その結果にたどり着くまでに、人間も魔族も多くの犠牲を払った。争う事は醜い。それを双方が理解しかけた時、既に足下には、取り返しのつかない状況になってしまっていた」



モニターに映る昼過ぎの町並みとまた違う、空間が俺とアネットさんの間にある。



「1000年前から今に至るまで、世界的な争いは起こらなかった。それは、人間が常に魔族な存在を恐れてから。とある学者は言いました。もし、この世界に魔族の恐怖がなかったならば、人間は世界的な大戦を少なくとも2度起こしていたと」



世界的な大戦を2回も? そんなバカな。



「人間は、平和であるが故に、自ら争いを起こす生き物なのです。ですから、我々魔族が悪役となって、人間に潜在的恐怖を与える。そんな役周りなのですよ。1000年前の敗者は」

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