実況!4割打者の新井さん

わーたん

仕事人の奥田さん

8回表、相手チームの攻撃。ここをしっかり抑えれば今日の試合の勝ちへの道筋がしっかりと見えてくる。あとアウトカウント1つ。せっかくいい形で勝ち越したんだ。

なんとか踏ん張って欲しい場面。



「打ちました! セカンド守谷飛び付く!! 抜けた! 打球はライト前ヒット!! セカンドランナーも3塁を回った、回った! 強肩桃白からバックホームも………送球逸れたー!! ホームイーン! これで1点差!

埼玉ブルーライトレオンズ、この8回表、3点を返しまして1点差! 2アウトながら、ランナー1塁3塁、また試合は分からなくなりました!」



おい、ロンパオちゃん! なにしてんの。

この回からゆっさゆっさとマウンドに上がった台湾サウスポー。

三振と内野フライで、簡単に2アウトまで来たと思ったら、そこから急に連打されて3点も取られやがって。

なんだか春先よりもっちゃりしちゃって、食べ過ぎじゃないの?

そんな感じでレフトからロンパオにブーブー文句を飛ばしていると、吉野ピッチングコーチが現れて、監督もベンチから出て来て、ピッチャー交代の流れに。

キッシーかな?


「北関東ビクトリーズ、ピッチャーの交代をお知らせします。ピッチャー、リ・ロンパオに代わりまして、奥田。ピッチャーは奥田。背番号43」




何日が前の試合では、抑えのキッシーが8回の途中からマウンドに上がる回跨ぎパターン。もうどうにもならん!なんとかしてくれ!というピッチングコーチのお願いを受けて今日も出てくると思ったら、リリーフカーに乗っていたのはベテラン左腕の奥田さんだった。

プロ15年目のベテラン。若い頃は140キロ後半のストレートで奪三振率も高い本格派左腕だった。

今は30半ばを過ぎたベテランの領域。これまで5球団を渡り歩いたその経験の賜物か。ピッチングスタイルは若い頃のものとは違う。

140キロにも満たないストレートながら、巧みにバッターを打ち取るその投球術はチーム随一。

ピッチャープレートの左端ギリギリに立って、そこから繰り出すサイドスローから放たれるボールは左バッターを手玉に取る。

「マウンドには、ベテラン先月37歳になりました奥田がマウンドに上がります。今シーズン16試合目の登板になります。ここまで1敗6ホールド。防御率は3、74です」

「左バッターの春山に打順が回るところですからねえ。このワンポイントだけでしょう」


「しかし、バッターの春山は左も苦にしない好打者です。3塁ランナーを返してしまえば同点。ピッチャー奥田、このピンチを凌げるでしょうか」



4月の頃。

2軍の試合で初めて奥田さんのピッチングを見た時にも思ったのだが、1球1球にしっかりと気持ちを込めるように投球するその姿はまさに仕事人の姿。

年齢的にも、長いイニングはもう投げられないかもしれないが、その短い出番の中で見せる集中力は素晴らしいものだと、ルーキーの俺がいっちょまえにそう感じたりした。

「ピッチャー奥田投げました! 外低め決まって1ストライク。126キロのスライダーでまずはストライク先行です」

身長も170ちょっとで俺と同じくらい。少し痩せた体型で、あまりプロ野球らしくない体つきではあるが、ロッカーで着替えた時に見る、鍛え抜かれた腹筋や背筋の付き方がものすごい。無駄がない洗練された体だ。

それに関しては、若手の選手達にも全く見劣りしないのだ。日頃のケアやトレーニングを本当に大事にしているのだろう。

「カウント1ボール1ストライクから第3球投げました。打った! いい当たりもショート正面! 赤月、2塁へ送球しまして、3アウトチェンジ。リリーフ登板の奥田、見事春山を打ち取りまして、このピンチを脱しました」

チェンジになった瞬間、レフト側の埼玉ファンからため息が漏れ、北関東ファンから大歓声。多くの人が立ち上がって、見事な火消しをした奥田さんに拍手を送る。

今日1番といっていい盛り上がりだった。

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