実況!4割打者の新井さん

わーたん

必死にプレーする新井さん2

「やったー!!」

「ヤー!」

阿久津さんがホームに生還した瞬間、俺は両腕を高く上げてバンザイした。

ネクストバッターのシェパードも俺の真似をするようにして長い腕をバンザイする。

息を切らしながら立ち上がる阿久津さんと腕をガチッと合わせてベンチに戻り、チームメイト達と一緒に喜ぶ。

「阿久津さん、ナイスラン!」

「阿久津さん、ナイススライディングっす!」

俺が2アウトからライト前にヒットを打って、阿久津さんはサードの悪送球で出塁しただけなのに、ベンチの汚い控え選手達はここぞとばかりにキャプテンの阿久津さんを盛り立てる。


とにもかくにも、この赤ちゃんの1打で2点を勝ち越したのは非常に大きい。

あとは8回をロンパオ、9回をキッシーに抑えてもらえば、今日は勝てるぞ。

そう思っていたら…………。


カアアンッッ!!



長身のイタリア人である、シェパードが左バッターボックスの1番後ろに立って、フルスイング。

スイングしたバットが背後の地面に着きそうになるくらいの豪快なフォロースルー。

低めの変化球を真芯で捉えた、もの凄い弾道の打球を宇都宮の夜空に舞い上げた。

ベンチの前に転がってくるくらい、バットを高く放り投げて、打球を見上げながら、1塁へホームラン確信歩きをするシェパード。

打球は長い滞空時間を経て、ビクトリーズ応援団の真ん中。真っピンクに染まったライトスタンドの中段へ飛び込んでいった。



打球が上がった瞬間、思わず息を飲んで打球を見上げてしまっていた。

バックネットからバックスクリーンへ。

セパレートラインで構成された、淡濃2色の緑色の人工芝。

レインボースターライトと名付けられた、日本球界では初の規格とされる照明塔の光のドームを抜ける打球。

さらにその奥、無数の星が光輝いている夜空に消えるように放物線を描いた打球が、ライトスタンドに着弾した。

まるでその打球は、夜空に一瞬輝いた流れ星のよう。


イタリアから単身アメリカに渡り、3Aでシーズン20ホーマーを放った打棒。低めの変化球にはくるくるバットが回ってしまうが、一度芯を食えば、これぞ助っ人外国人という弾道のホームランをかましてくれる。




勝利を願うビクトリーズファンの思いを乗せた一筋の光。

野球とはまだまだ縁の遠い、イタリアのフットボールタウン出身選手の放った打球が勝利を大きく引き寄せる2ランホームランとなったのだ。



赤ちゃんのタイムリーで気落ちしたピッチャーの失投を捉えなナイスなホームランだ。




「ここでシェパードに大きな1発が飛び出しました!! 埼玉ブルーライトレオンズをさらに突き放す2ランショットは今シーズン第7号です!」



「このホームランは大きいですねえ。よく打ちましたよ」






「ウエーイ!!ウエーイ!! ウエーイ!!」


ホームランを打ったシェパードがすこぶる興奮した様子でベンチに返ってきた。

軽くジャンプしながら、出迎えるチームメイト達の手にバチン、バチンとハイタッチしていく。


こっちの手がビリビリ痛くなりそうな程に強く、パスタマンはチームメイトに渾身のハイタッチをかましている。

「ウエーイ! アライボーイ!」

シェパードが最後尾の俺のところまでやってきた。

「ウエーイ!」

俺もウエーイと叫びながら手を出しつつ、思い切りシェパードのデカイイタリア産のお尻を揉みしだいてやった。

さっきのお返しだ。

「イタイ、イタイヨ!アラサーン!!」

よっしゃ。イタリア人のお尻をやってやったぜ。




「これは本人にとってもチームにとっても非常に大きなホームランとなりました」

「そうですねえ。この助っ人も、当たりさえすればパワーはあるんですけどねえ。今の低さだと、ちょうど腕が伸びきって1番飛ぶところなんですよ。あそこからボール1、2個低いところは空振りしてくれるんですがねえ。……まあ、甘く入りましたね」


「さあ、この回シェパードに2ランホームランが飛び出しまして、ビクトリーズ4点リード。8回表に入ります」

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