実況!4割打者の新井さん

わーたん

やらかした柴ちゃん4

「北関東ビクトリーズ、選手の交代をお知らせします。代打に出ました川田がライト。ライトの桃白がセンター。センターの柴崎に代わりまして、ピッチャー、九条。背番号24。1番、ピッチャー、九条。6番センター、桃白。9番ライト、川田。以上に代わります」


8回ウラ。俺の予想通り、柴ちゃんはベンチへと退いた。

懲罰交代というやつである。

汚れたユニフォームのまま、汗だくのまま、短いツンツンヘアーのドラフト9位ルーキーは、うなだれるようにしてベンチの1番後ろに座っている。

「ピッチャー九条投げました! 打った、レフトへいい当たり!」

まあ、ドラフト9位の大卒新人選手ながら、開幕から1軍に帯同し、チームを救うホームランを放つなどの活躍は素晴らしいことだ。
よくやっているとは思うが、足が武器の選手が痛い走塁ミスを2つやってしまったのでは交代は当然なことだろうか。

「レフトの新井がやや前進して掴みました! いい当たりもレフト正面のライナー、1アウトです」

それから約1ヶ月半の間、1番センターとして試合に出続け、打率.239 2本  7盗塁という成績は、最下位を独走するチームにしては、それほど悲観するものでもない。

半月前はもう少し打率があったことを考えれば、なんとかやっていけそうな目処は十分に立っていた。




「打ちました! これは高く上がりました! 左中間です!センター桃白、レフトの新井がともに追っています」

とはいえ、1塁ランナーとして1、2塁間に飛んだ、俺が打った、俺が打った! お・れ・が・う・っ・た!ライト前に抜けるか、場外ホームランになるかのきわどい打球に当たってしまうなんて、正直考えられない。


そんなプレー正直わりと見たことがない。


「フェンス際大きな当たりですが、最後はレフトの新井が桃白を制して打球を掴みました!2アウトです。

もしかしたら、あそこからぐんぐん伸びて場外ホームランになっていたかもしれないのに。

しかも、そのプレーを引きずり、集中を欠き、センター前に落ちる打球の目測を誤って、余裕で進めた2塁でアウトになるなんて。ミスミス相手にアウトを2つもやるなんてそれはお助けしすぎ。

そんなことをしたら、恐らく柴ちゃんじゃなくても当然に交代させられるような案件かもしれない。

チームの士気に関わるからね。ファンがっかり。


「ピッチャー九条、2球目を投げました! 左バッター柱戸の振り遅れた打球は………。これもレフトへ上がりましたが、ファウルグラウンド、左に切れていきます。ショート赤月下がる! レフトの新井も追いかけていきます」




まあでも、柴ちゃんにはいい経験になると思う。テストを経て、ドラフト9位で入団して、合同自主トレからルーキー選手の中では1番頑張っていたし、キャンプでもアピールを続け、オープン戦では俊足を生かした守備に打撃にと存在感を見せていた。


開幕してすぐに1軍に上がり、ビクトリーズの初勝利となった試合でホームランを打ったりしたし。


それでもまだプロ野球選手としてのシーズン、人生は始まったばかりだ。


勉強になることはたくさんある。

これから先、たくさんのいいプレーをするだろうし、ミスもたくさんするだろう。

その様々なプレー、1つ1つの積み重ねがその選手の価値となり、時が過ぎて誇りとなるのだ。

「フェンス際、打球が切れていきますが………新井が打球に飛び込んでいきました!!」

大切なのは、ミスをした時にそれを素直に受け止め、これからの糧に出来るかどうかだ。

そのためには、背伸びせず、欲を出さず、常にベストのプレーを心掛けることだ。

「新井はフェンスに激突! …………どうだ!? 打球は捕っているか…………? 捕っている! 捕っています!! これはレフトの新井がフェンスを恐れず気迫を見せたファインプレーに両チームのファンから拍手が起こっています!!」


そうすれば、プロ野球選手としてだけでなく、人として成長することが出来るんだ。




フェンスがいてえけど。

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