実況!4割打者の新井さん

わーたん

新井さん、ブチギレる3

「新井くん。よう戻ってきたやんけ。ほな、トレーニングいこか」

「げー。それよりバッティング練習させてよー」

朝8時。恐る恐る2軍の練習場に行ってみると、球場の入り口で関西弁コーチがニタニタしながら俺の到着を待っていた。

俺が2軍監督にあいさつに行っている間もロッカーで着替えている間もなんだな嬉しそうに俺の後を着いてきていた。

「なんなんすか、もう。気持ち悪いよ」

「ええやんけ。はよトレーニングやろうや」


一応俺は1回1軍に上がって代打でバントとはいえ、試合に出てたからね? フリーバッティングとか守備練習とかやっておきたいわけよ。

「ええねん、ええねん。そもそも君が1軍に上がったことがハプニングやねん。本当はどんなことがあってもオールスターまでは新井くんは1軍に上げへん約束やったんやで? それまでの半年間のトレーニング組んでたんやから」

「それがおかしいのよ。誰の指示なのよ、それは」

「アメリカの親会社のオーナーやん。あの真っ赤なスーツのおばちゃんの命令やで」

あ、そう。それはもう何も言えないけど。






「それじゃ、そろそろお仕事行ってくるね」

月曜日。今日は1軍2軍ともに移動日で試合ないデーな1日だったのだが、関西弁コーチトレでしごきにしごかれ、いつもの2割り増しでみのりんのご飯を頂いてしまった。

そして夜9時半を過ぎる頃、みのりんが仕事に出るための身支度をし始めた。

俺も一緒に立ち上がり、いつもは自分の部屋に戻るのだが、今日の俺は違う。

「山吹さん。仕事場まで送っていくよ。もうこんな時間だし」

「えっ?」

「あ、嫌だった?」

「ううん。そんなことない」

「じゃあ、一緒に行こう」

「うん」

俺達の住む場所からみのりんの仕事場である工場までは、歩いて10分ほどだが、時間が時間なので、食後の散歩がてらに送っていこうと思い付いたのだ。

マンションの裏から公園の横の道をテクテクテクテク。

時折外灯があるだけの道を歩いていく。

「山吹さんは、工場で何を作ってるの?」

「今はケーキかな。ずっとホールケーキにクリームを絞ってるの」

「へー、そうなんだ」

「今度新井くんにもケーキ作ってあげるね。誕生日いつ? 選手名鑑に新井くんいないから、分からなくて」

「そーだ、そーだった! 選手名鑑に俺のこと載せ忘れやがって!出版社に電話しようと思ってたんだ! 思い出しちゃったよ!」

「………それで、新井くんの誕生日はいつ……?」

「ちきしょう。明日になったら朝一で電話しよ! 失礼しちゃうわ! こちとられっきとした野球選手なのに!」

「………聞いてない」




          

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