実況!4割打者の新井さん

わーたん

俺ってプロ野球選手ですよね?

あなた、プロ野球選手なの?



面と向かってそう言われた時、俺はどんな顔をしていたのだろうか。



巷でいうプロ野球選手といえば、日本中の野球の猛者が集まるプロ野球界において、華々しく活躍するチームのヒーロー。野球少年の憧れような男達。



しかしそんな選手は、900人程いるのプロ野球界でもほんの一握りだ。



1軍で長いこと活躍する選手より、入団して4、5年経つ頃には戦力外通告を受ける選手の方が遥かに多い。



プロで通用するしないは人それぞれ。



野球人生も人それぞれ。誰が幸せで誰が不幸せなのかなんて誰にも分かりやしない。





今日、新人合同自主トレの初日を終えただけの俺が、果たしてプロ野球選手と呼べる存在なのか。



俺はそんなことを考えてしまっていた。



とりあえず。



今は無名のドラ10ルーキーだが、いつか日本を代表する選手になるから、覚えとけ!



シチューをご馳走してくれた優しい女性に、俺はバットを取り返しながら、そう言い放った。


「………びっくりした」



気付くと、俺の目の前でバットを両手で持っていた体勢のまま彼女は立ちすくんでいた。



眼鏡の向こう側で大きく見開いた瞳を見て、俺は焦り、慌てて彼女に謝った。



「………いいの。急に大声を出されて驚いただけだから」



彼女の見開いた瞳はすぐ元に戻った。



「あなたに相談があるの。プロ野球選手であるあなたに」



プロ野球選手である俺に? 一体何の用だろうか。



「私、小説家なの」



え! そうなんだ、すげーじゃん! と、褒め称えたら、彼女はふるふると首を横に振った。



「そんなに自慢ほど売れてるわけじゃないから。小説家としては、結構崖っぷち。………そこであなたにお願い。 野球モノのリアリティーの小説を書きたいから、ネタをちょうだい」



ネタ? 急に野球のネタって言われても、たいして話なんてないけどなあ。



「そんな顔しなくても大丈夫。あなたがこれから経験するプロ野球生活を私に話してくれればそれでいいから。………そうすれば、さっきのガラス代は見逃してあげる。ご飯も毎日作ってあげるし」





なるほど。この女。そういう魂胆だったか。







「なるほど。まあでもこれがwinーwinってやつかもね。俺は新井時人。ビクトリーズに入団したドラ10ルーキーだ。よろしくね」



俺はそう言って右手を差し出した。



すると彼女は………。



「私は山吹みのり。山吹色の山吹に、平仮名でみのり。よろしくね、新井くん」



山吹さんもすっと右手を差し出し。軽く握手。





柔らかい、小さな温かい手だった。




そして、最近どっかで聞いたような自己紹介だなと俺には引っかかるものがあった。

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