実況!4割打者の新井さん

わーたん

新井さんの引退

「北関東ビクトリーズファン、そして全国のプロ野球ファンの皆様。ついに……ついにこの瞬間が来てしまいました。



今年60歳になりました伝説の右打ち職人、新井時人が現役生活最後の打席に入ります。



メジャーリーグでの2年間。デビュー3年目。ここ、ビクトリーズスタジアムでのオールスター戦での悪夢。


それからの空白の5年間もありました。





しかし、今日の引退試合はただの試合ではありません。3勝3敗で並んだ東京スカイスターズとの日本シリーズ第7戦の延長15回裏、同点の2アウト満塁。1打サヨナラ、日本一という場面で監督自ら。新井時人が最後となりましょう、右バッターボックスに入ります」




これほどまでに、自分の体から発せられる鼓動が聞こえた打席は今までにない。




この歳になっても、これだけのキャリアを積んでも、俺はまだ緊張という感情からは逃れられないのか。




周りを見渡せば4万人を越える観客がいて、ベンチを見れば苦楽を共にしたチームメイトがいて、スタンドには妻と2人の娘、そして遠い欧州の地から、息子も見ていてくれているだろう。



今まで世話になった歴代の監督、コーチやトレーナー。先輩、後輩。グラウンド以外でも家族や友人、宇都宮という街の人に、たくさんの野球ファン。


もちろん、シャーロットのファン達も。


数えきれない程の人達のことを思い出す。



緊張してるとか感じていながら、こんなプロ野球の、シーズンの大トリの場面でそんなことを思い出す余裕があるくらいに実は落ち着き払っているとも言えるのかもしれない。



ともかく、どんな結果になろうとこれが最後の打席だ。



頬を流れた一筋の汗で我に返りながら、自分終わりを決める打席に俺はいよいよ足を踏み入れたのだ。





          

コメント

  • ノベルバー姉です

    読みやすかった。プロ野球物とは身近で馴染みやすいですね!

    0
コメントを書く

「現代ドラマ」の人気作品

書籍化作品