ニールの饗

ノベルバユーザー465886

目覚め

この世は兎角に生きにくい、とは誰の言葉だったか。生きにくさを感じた僕が最後に行き着いたのはビルの屋上、とりあえず生まれてこの方、あまり自分の意思で行動しなかった僕が理解しているのは僕は今自殺をしようとしているという事だけである。父母は早くに死んで祖父母に引き取られてからは特に何不自由なく暮らして来たがここ最近では生きている意味が分からず無気力であることも多くなった。現に3ヶ月前から学校には行っていない。高校2年に上がったのがいい踏ん切りとなってしまったのだ。まことに皮肉である。何かと不自由なくやらせてもらっていたのが災いして全く将来について考えられない子供になってしまったらしい。この間仮病を使って面談を休むために診断書を貰いに病院に行ったら冗談のつもりだったが、どうやら難病を患っていたらしく進行度もかなりのもので体にそれらしい異変は出ないものの余命は持って半年だそうで見えなかった未来はそもそも閉ざされることになったようだ。
 流石に田舎とは言えどもビルの屋上からは遠くの街明かりが見える。あのあたりはちょうど新興の住宅街か。今もあの明かりの元で多くの人々が食卓を囲んだり談笑したり賑やかで暖かい家族の時間を過ごしているのだろうか。両親がいればあんな時間を過ごすことも出来たのだろうがそれに対して別に特別な感情も湧かない。風が強くなってきた、そろそろ踏み出す頃合か。
 ポケットのスマホが振動する。新着メッセージ1件、と書いてある。祖父母は未だにガラケーで連絡はメールで送り合っているので祖父母からでは無さそうだ。ロックを解除してメッセージアプリを開く。無機質な画面の空白のようなメッセージ欄に1つだけ「new」と新着メッセージを表すアイコンが出ている。
『元気?どこ住み?今から会える?』
出会い系の勧誘だろうか、性別はどちらでも良いのだろうか、どうせすぐに死ぬ運命だ。気前よく返信してやることにした。
「H県H市在住です。男です、今からでも大丈夫です」
そもそもこの人は僕の近くに住んでいるのだろうか、もし近くじゃなければ返信は来ないんだろうか。それはそれで寂しい感じもするがそれが出会い系というモノじゃないだろうか。
『ならよかった。今行く』
返信は早かった。そもそも僕の居場所が分からないんじゃないだろうか。彼なのか彼女なのかは分からないが、このビルは駅から10分以上離れた場所にあるしそもそもこんな地方都市の廃ビル同然の古びたビルなんて一体何棟あるかわからないのに『今行く』なんて自信ありげに言って
「アホなんじゃなかろうか、とでも言いたげだね。少年」
声に釣られて振り向くとそこには女がいた。声が出ない。
「助けて欲しいんだ、勿論他でもない君の助けだ。一緒に来てくれる?」
 僕は思わず女の誘いに乗ってしまった。
このおかげで僕の人生は狂ってしまった。

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