草食系男子が肉食系女子に食べられるまで

Joker0808

第18章 石崎の過去

「あの……石崎先生…」

「あ、葉山先生……すいません、お騒がせしまして……」

心配そうな顔をしながら、葉山は石崎に近づく。
葉山は、あんなにも感情的になった石崎を見たのは、初めてだった。

「先生は知っていたんですか……あの……今村君の事……」

「そりゃあ一応担任ですからね……」

石崎は目を細めて葉山に優しく言う。
教師の中で、雄介のすべての事情を知っている人間は限られていた。
大抵の教師は、幼い頃に目の前で両親を殺された事と女性に対して体が拒絶反応を起こす事だけだったのだが、今回の事件がきっかけで、教師全員が雄介の過去を知った。

「いつから知っていらしたんですか?」

「あいつが入学する前ですよ……合格発表が行われて直ぐでした……」

「良かったら聞かせていただけますか?」

「面白い事なんて何もありませんよ? こんないい天気の日だったのは覚えていますが……」

石崎は窓の外を見ながら、葉山に雄介と出会った時の事を話し出す。





俺、石崎勇吾は休日にも関わらず、学校の校長室に呼び出されていた。
何かしてしまったかと、若干焦ったが、穏やかな校長の顔を見て、一安心する。
ではなぜ、こんなところに、しかも休みの日に呼び出されたのか、俺は更に疑問を浮かべる。
季節は春、来月の頭には入学式も控えており、新しい生活が始まろうとしていた。

「すいませんね~お休みの日に……」

「いえ、どうせやる事も無いですから」

「ははは、若い者が休日もゴロゴロしていてはいけませんぞ~」

常に笑顔で校長は俺に向かって話を続ける。
温厚で優しく、校長でありながら生徒からの人気が高いこの人は、ニコニコしながら話を続けた。

「それにしても……早いですな……あれからもう7年………」

「……もう、流石に立ち直りましたよ」

「来月には式だったというのに……本当に可哀そうでした……」

「……過ぎた事を言っても、仕方無いですから……」

俺は7年前、結婚を約束した女性が居た。
しかし、彼女はもうこの世には居ない、式の一か月前に交通事故で死んでしまった。
俺は学校に連絡が入り、急いで病院に向かった。
だが、その時には遅かった……。

「あの時の事は感謝しています。校長が色々気を使ってくれたおかげで、私はこうして教師を続けて居られます」

「いやいや、貴方自身が強かったんですよ」

最愛の彼女を失い、俺は何もやる気が起きず、毎日家に引きこもっていた。
そんな時だ、この校長が俺を外に引っ張りだしてくれた。
今でも感謝の気持ちは忘れていない。
この人が居たおかげで、俺は社会に復帰出来たと言っても過言ではないのだ。

「すいません、話がそれましたね。実は話と言うのは……新入生の事なんです」

「はぁ……問題児でも入学するんですか?」

「……ある意味、不良生徒の方が楽かもしれません……」

校長はソファーに座るように言い、一枚の入学願書を見せてきた。

「今村……雄介……この子が何か?」

「はい、この子は色々と訳アリでしてね……」

「なんですか? 合格発表後に問題でも起こしたんですか?」

「いえ、この子は問題どころか、入試の成績は上位10名の中に入るほど優秀です」

「では、なぜこの子が?」

何か病気でも抱えた生徒なのか? 俺は最初そう思った。
たまにいるのだ、重い病気を抱えており、体育などの特定の授業で特別扱いをせざる負えない生徒が、しかし自分の担当は世界史だ、何か特別扱いをしなくてはならない理由は無いはずなのだが……。

「この子は、幼い頃に両親を目の前で殺害され、更に誘拐され、人体実験に利用された過去をもっています」

「は……ほ、本当ですか?」

俺は驚いた。
そんな映画のような人生を送ってきた少年が居るなど、言葉だけでは信じられなかった。

「はい、彼の入学にあたり、刑事さんからも彼の過去を伺いましたが、間違いないそうです」

「な……なるほど……それでこの子は今は?」

「心優しい夫婦に引き取られ、今は普通に暮らしているそうです。今年副会長に選ばれた、一年生の今村里奈さんを知っていますか?」

「はい、教師の間でも彼女は評判ですから……まさか!」

「そうです、お察しの通り彼女の義理の弟です」

姉の方の授業を受け持っていた俺は、姉の事を思い返していた。
成績もよく、友人も多い印象で、なぜかわからないが、弟の話を楽しそうにしているのを覚えていたが、まさかその弟にそんな過去があったなんて……。

「彼は事件がきっかけで、女性に対して拒否反応を起こす体質になってしまい、女性に触れられただけで、気絶してしまうそうです。おそらく、犯人の女性が原因だろうと、刑事の方が言っていました」

「なぜ、その話を私に?」

何となく察しはついていた。
俺は今現在クラスを持っていない、そのためこの話を俺にする理由は一つしか思いつかなかった。

「貴方にお願いしたいのです。彼の担任を……」

予想通りの校長の言葉に、俺はやっぱりかと頭を抱える。

「校長、私には荷が重すぎます……他のベテランの先生に……」

申し訳なく思ったが、俺は校長にそう告げる。
彼女が死んだときも、自分ひとりで立ち直れなかった俺に、この生徒は無理だと思った。
人生経験を考えてももっとベテランの先生に任せるべきだと、俺は思った。
しかし、校長は笑いながらこういった。

「ハハハ、やっぱりそう言いましたか……」

「予想してたなら、最初からベテランの先生に……」

「いえ、やはり貴方しかいないと、私は今確信しました」

「え?」

俺は校長の言葉の意味が全く分からなかった。
そんな重たい過去を抱えた少年の担任など、俺には無理だ。
自分のメンタルケアすらできづ、あの頃は何回自殺未遂を行ったか分からない。

「私は、彼を見た時思ったのです。石崎先生、貴方に良く似ていると」

「私に……ですか?」

「はい、よく似ています。あの頃の貴方に……」

「……それとこれにどんな関係が?」

俺が尋ねると、校長は笑顔で俺の元に近づき、笑顔で言う。

「とりあえず会って見て下さい。今から行くと、私が連絡を入れておきました」

「え! 急ですね……」

「全は急げと言いますからね」

「急がば回れ、とも言いますが……」

校長の強引な押しに、俺は負けて会ってみる事にした。
校長から地図を預かり、俺は車を飛ばして、目的地まで向かった。

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