草食系男子が肉食系女子に食べられるまで

Joker0808

第16章 新たなる朝7

二組見舞いが来ただけなのにも関わらず、雄介は疲れて寝てしまった。
突然のガチのお嬢様からの告白に、少し常識のズレたその子の父親との面会。
疲労が溜まるのも無理は無かった。
病室には、徹が置いて行った豪華な花が異様な雰囲気を醸し出している。

「ん……う~ん……今何時だ……」

雄介は目を覚まして、近くに置いていたスマホを手に取り時刻を確認する。
時刻はもう16時を回っていた。
織姫が病室を後にしてから、実に2時間ほどが経過している。

「結構寝たんだな……よっと」

雄介は起き上がり、ベッドの横に置いてあるテレビをつける。
チャンネルを回すが何も面白い番組は無い、仕方無しにニュースを見ているととあるニュースが雄介の目についた。

『続きましては、先週起きた学園祭襲撃事件のニュースです。既に犯人は逮捕され、学校も通常通りの授業を再開しました。事件に関しましては……』

ニュースのアナウンサーが、事件についての細かい詳細を話している。
雄介はそのニュースがどうも気になった。
何か知っているような、聞いたことがあるような……。そんな思いでニュースに見入っていた。

コンコン

ニュースを見ていると病室のドアをノックする音がした。
雄介はテレビを消し、慌ててノックの主に向かって答えた。

「は~い、どうぞ!」

雄介がそう言うと、勢いよくドアが開き、ドアの向こうから綺麗な少女が顔を出した。

「ユウ君……」

その女性の正体は、雄介の義理の姉である、今村里奈だった。
里奈は、学校帰りに直接やって来たらしく、制服姿に学校指定のカバンを持っていた。
しかし、雄介は里奈の事を覚えているはずもなく、誰なのだろうか? と考えながら口を開こうとするが……。

「えっと……どなたでって、うわぁ!!」

「ユウ君! 会いたかった! 会いたかったよ~」

里奈は雄介が言葉を言い終える前に、雄介の元に飛んでいき、胸に抱き着いた。
わんわん大泣きをしながら、里奈は雄介の胸に顔を押し当てる。
当の本人である雄介は、里奈の正体がわからず困惑していた。

(また、変な人が来た……)

内心雄介はそう思いながら、里奈が泣き止むのを待った。
数分で里奈は泣き止み、落ち着きを取り戻して、ベッドの脇に用意された椅子に座って涙を拭く。

「あの……すいません、自分記憶が無くて……貴方の事を覚えていなくて……」

「知ってるわ……でも、生きてた……また、会えた……」

涙をこぼしながら、笑顔でそういう里奈。
雄介は、自分が多くの女性を泣かせるような罪な男だったのだろうか? などと本気で思い始めていた。

「失礼ですが、お名前と自分との関係を聞いても良いでしょうか?」

「えぇ……私は今村里奈、貴方の姉で嫁よ」

「あぁ~貴方が、すいません覚えていなくて………ん?」

雄介は今さっき里奈が言った自分との関係について、大きな違和感を覚えた。
雄介はその違和感の正体を探るため、もう一度里奈に確認する。

「あの…さっきの自分との関係ですが……嫁とかって言いました?」

「えぇ、言ったわ」

雄介は確認して間違いで無い事を知ると、頭の中で必死に考えた。

(あれ? 俺って結婚してるの? でも確か、日本男性の結婚年齢って確か18からなんじゃ……)

などと考えていると、里奈がおもむろに雄介を自分の胸元に抱き寄せて来た。
雄介は里奈の行動に驚きつつも、突然だった事と、里奈の強い力によって、身動きが取れなくなってしまった。

「可哀そうに……ごめんね…お姉ちゃんが守ってあげられなくて……でもこれからはずっと一緒よ。さぁ、お姉ちゃんと一緒に田舎でひっそり暮らしましょう!」

「ま! 待ってください!! とりあえず離してください! 苦しいです…」

「あ、ごめんね…」

そう言うと里奈は雄介の拘束を解き、椅子に座り直す。
雄介は身の危険を感じ始め、若干里奈から距離を置く。
この人は本当に自分姉なのだろうか? そんな疑問まで浮かんでくる。

「あの、先ほど嫁とか言ってましたけど、冗談ですよね? 年齢的に自分は結婚できませんし……」

「そうね、少し話を盛ったのは認めるわ……でも、結婚を誓い合った恋人同士なのは本当よ!」

「そ、そうなんですか!」

まさかの姉が恋人という衝撃の真実に雄介は驚く。
しかし、その事実が間違いだという事を、後から入ってきた人物によって知らされた。

「あんたは何やってんの…」

「ぎゃ! い…痛いよ……」

後からやってきたのは紗子だった。
里奈の頭を本の角で叩き、里奈の言葉を止めた。

「はぁ~、この子はまったく……雄介、この子が貴方の姉って言う事だけが本当。それ以外はこの子の妄想」

「あ、はい。なんか納得です」

雄介は紗子の説明に直ぐに納得することが出来た。
普通に考えてあり得ない話だし、記憶を失う前の自分がどんなだったか、今の雄介は分からないが、そうじゃない気が何となくしていた。

「まぁ…でも、あの子が雄介を家族として愛しているのは本当だから、久しぶりに会えてうれしかったのよ」

そう言った紗子の目は、まぎれもない母親の顔だった。
二人の子供を交互に見ながら、紗子は目を細める。

「絶対に、貴方たちを不幸になんてさせない。今回の事で決心したわ」

雄介は紗子の言葉を聞きながら、どう反応したら良いのか戸惑った。
記憶が無い以上、雄介からしたら紗子は他人。
なぜ自分にここまでの事を言うのか、雄介はまだ分からなかった。

「そんな事よりユウ君!」

「え、あ…はい」

雄介は里奈に呼ばれて、若干後ずさる。
しかし、里奈はベッドの上に乗り、雄介の目の前までやってきて、雄介の顔をよく見る。

「本当に……良かった……」

「え…えっと……」

里奈は、雄介の頬を撫でながら、優しくそう言い、涙をこぼした。
最初は変な人だと思っていた雄介も、里奈のそんな姿を見て考えを改めた。
自分の事を本当に心配し、愛してくれているのだと……。

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