草食系男子が肉食系女子に食べられるまで

Joker0808

第16章 新たなる朝2




「えっと……なんで思い出せないんだ? しかもこんな大けがして……」

雄介は困惑していた。
記憶をなくし、自分が何者であるかもわからず、ただこの状況がどういう状況なのかを考えていた。
すると、病室のドアが開き、白衣を着た老人が入ってきた。

「おぉ、目が覚めたか…よかった、いや実に良かった」

「先生ですか?」

「ん? 何を言って居るのじゃ? わしじゃよ。定期検査であっていたじゃろ?」

雄介は何のことかさっぱりわからず、首を傾げる。

「あの、自分の事を知っているんですか?」

「何を言って居るんじゃ雄介君? ……まさか……」

白衣を着た老人は、何かを思い立ち急いで病室を出て行ってしまった。
一体誰だったのだろう? 雄介はそう思いながら、とりあえずベットに横になった。

「これって、俺のかな?」

雄介は机のわきに置いてあったスマホを手に取り見てみる。
スマホの操作はなぜか体が覚えていた。
自分の物なのか定かではないが、ロックが掛かっていないのが不用心だと思いながら、雄介はスマホを開いて中を確認する。

「今村……雄介……これが俺の名前?」

スマホの中にあまりアプリは入っておらず、メッセージアプリには数多くの未読の通知が来ていた。

「写真を見てみるか……」

写真何か手がかりがあるかと思い、写真フォルダを雄介は見始める。そこには楽しそうに笑う友人と自分が写っていた。
女生徒の写真が多く、一体自分は何もだったのか、心配になってくる。

「雄介君! すまないが、今から早速検査に行こう」

「え、あ、はい……」

慌てて戻ってきた白衣の老人がそういうと、俺は車椅子に乗せられて別室に移動になった。
自分が何の病気で入院しているのかもわからないのに、検査というのは不安だった。
検査は長かった、MRIとか言う機会に入って見たり、レントゲンを撮ったり、2時間くらいずっと検査であちこちを調べられた。
そして、やっと病室に帰って来て、今は白衣の老人が俺の体の説明をしていた。

「単刀直入に言ってしまえば、君は記憶喪失になっている可能性が大きい」

「まぁ、そうでしょうね……何にも思い出せないし……」

老人の説明を受けるうちに、雄介は自分の事が少しづつわかってきた。
高校1年生である事、元の両親は既に他界しており、今は義理の両親と姉が一人いるらしい。
間もなく、その義理の両親が来るらしいのだが、いかんせん実感がわかない。

「まぁ、あまり情報を与えすぎてもパンクしてしまうかもしれん……とりあえず、ここまで知っていればよいじゃろ。あと、わしは奥澤(オクザワ)、君の主治医をしている」

「あ、よろしくお願いします。もう一つお聞きして良いですか?」

「なんじゃ?」

「自分は、なぜこんな大けがを?」

雄介は包帯だらけの体を見せて奥澤に尋ねる。
奥澤は少し考え、優しい顔で雄介に微笑みかけながら語りだす。

「それは、君のやさしさの勲章だ。しかし、同時に憎しみの傷でもある……」

「あの……どういう意味ですか?」

「知らないほうが幸せな事もあるってことだよ……」

そんな話をしていると、病室のドアが開いた。
ドアを開けたのは二人の男女であり、雄介はおそらく自分の今の両親なんだろうと思いながら、二人に視線を向ける

「雄介!!」

急いで俺に駆け寄ろうとする女性を奥澤が止める。
そして奥澤が何やら説明をし始める。

「雄介君、少し待っていてくれ」

「あ、はい」

三人は病室を出て行ってしまった。
しかし、本当に直ぐに戻ってきた、時間にして5分も経っていない。
おそらく廊下で少し話をしたくらいなのだろう。
しかし、帰って来た二人の男女の内、女性が泣いていた。

「あ、あの……あなた達は?」

雄介は恐る恐る尋ねる。
若々しい感じの男性が雄介の問いに笑顔で答えた。
雄介はこの人が本当に義理の父親だとした随分若いんだなと、驚きながら話を聞いた。

「雄介…いや、覚えていないんだよね……じゃあ、初めましてだね。僕は今村玄(イマムラゲン)君の父親だよ。こっちは紗子、君の母親だ」

「あ……えっと、すいません……何にも覚えていなくて……」

「そうか……いいさ、悪いのは雄介じゃない……雄介は……頑張ったよ、良く頑張った。だから……今は休んでいて良いんだよ」

話をしているうちに玄も涙を流し始める。
子供が自分の事を覚えていないのがつらいのは分かる。しかし、雄介は何を言われてもこの人達との記憶が無い、どんな顔をしてこの人達と話せば良いのか、わからない。

「ごめんね……」

それまで口を開かなかった紗子が口を開いた。
第一声は雄介に対する謝罪だった。

「私が……私が守るって……約束したのに………ごめんね……」

雄介の手を取り、強く握りながら紗子は雄介に謝り続ける。
雄介は分からなかった。
何を謝られているのか、何を約束したのか、全く覚えていない。
ほどなくして、紗子は無きやみ、三人で奥澤の話を聞くことになった。

「おそらく、頭に強い衝撃を受けた際に脳にダメージを受けたのでしょう。記憶が戻るかどうか、現状は分かりません」

「そんな……」

「しかし、戻らない訳でもありません。突然戻るかもしれませんし、徐々に思い出して行く事もあるのです。とりあえず、体の事の方が今は心配です。このままもう少し入院して経過を見ましょう。雄介君の場合は色々と厄介ですから……」

何が厄介なのだろうか? 雄介はそこが気になったが、何も言わずに話を聞いていた。
自分の体はそこまで悪いのだろうか? そう考えながら奥澤の話を聞いていた。

「とりあえず、この病室に現状では両親以外は入れないようにと、警察の方からも釘を刺されています。とりあえずは体を治す事に精進し、記憶はその後で取り戻していきましょう」

そう言って奥澤は出て行った。
残された雄介達は気まずい空気が流れていた。
雄介は何か話した方がいいだろうかと、チラチラ両親であろう人たちの顔を見たり、ソワソワしたりしていた。

「雄介、喉乾いて無いか? 僕が買ってこようか?」

「あ、じゃあすいません、お茶を……」

「分かった、紗子は何か居るかい?」

「私はいらないわ……」

そう言うと玄は病室を急いで出て行った。
雄介は紗子と二人きりで何を話したらいいか、更に悩んでいた。
泣き止んだものの、その顔は明るいものではなく、どこか暗い表情で、俯いていた。

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