好き同士ってめんどくさい
第30話
「やめて……後悔とか無いのか?」
「……無いわ」
「本当か?」
「無いわよ……」
そういう彩の顔は何か戸惑っている様子だった。
しかし、本当にそれで後悔は無いのかと問いただしたところで、彩の気持ちを変えられる訳でも無い。
俺はそれ以上は何も言わなかった。
「そろそろ帰って寝よう……時間も遅いし」
「うん……じゃあ……お休み」
「あぁ……」
俺は彩に別れを告げて、繋いでいた手を離す。
彩の表情はなんだか寂しそうだった。
しかし、もう時間も遅い。
彩だって早く休息を取りたいはずだ。
「じゃあ、お休み」
「うん、お休み」
俺と彩はお互いにそう言い、自分の家の中に入って行った。
「……彩……それで良いのか……」
俺は彩がアイドルをやめることについて考えていた。なんで今まで頑張ってきたことを簡単に捨てる事が出来るのだろうか?
目標を達成したと言っていたが、その目標とは何なのだろうか……。
俺はベッドに寝転びながらそんな事を考える。
そして考える度に、彩のあの複雑そうな横顔が脳裏に浮かんだ。
「で! どうだったの!?」
「……まだ居たのかよ……」
俺が考えごとをしていると、ユートが興奮した様子で現れた。
帰ったんじゃねーのかよ……。
「どうだったんだよ!」
「何がだよ……」
「進展はあったのかって聞いてるんだよ!」
「あぁ……まぁ……」
「プロポーズは!?」
「するかっ!!」
*
私は部屋に戻り、ベッドの上で明日の予定を確認していた。
明日はバラエティー番組の撮影が一つだけ。
帰りは恐らく遅い。
「……はぁ……またなのね……」
また学校が終わったら直ぐに仕事……。
アイドルは大変だ。
仕事は毎日あるし、一日仕事が無い日が珍しい。
でもそれは、私の人気があるからだ。
人気の無い芸人さんやアイドルの人たちは、営業に行ったり、仕事を取るのに必死だ。
それなのに私は……。
「……こんな事……他の人には言えないなぁ……」
人気があり、仕事もある。
それなのに引退したい。
普通だったら、もったいないとか、これからだ、なんて言うけど、私はそれで良いのだ。
そう……思っていた。
「本当に……良いのかな……」
やめると言った手前、私は悩んでいた。
先ほどの悠人との話しの中で、もしかしたら悠人はアイドルである私が好きなだけで、アイドルで無くなった私には興味が無いのではないのかと……。
「ライブのチケット一枚で……あんなに喜ぶなんて……」
私は久しぶりに握られた手の感触を思い出すように、自分の左手を右手で包み込む。
私の気持ちは変わらない。
私は悠人が一番好き。
アイドルが特定の異性を好きで居ることは許されない。
アイドルはファンである皆のものであり、誰か一人のものでは無い。
それがアイドルなんだと私は思っている。
だから、私にとってアイドルという肩書きは邪魔だ。
「彩、悠人君とは話せた?」
「……また来てたの?」
いつの間にか部屋にはアーネが入って来ていた。
私はため息交じりにアーネに答える。
「うん……楽しかったわよ……」
「そう! なら早速これを使って既成事実を!」
「だから! 婚姻届は早いの!」
私はアーネから婚姻届を奪い取り、そのまま丸めてゴミ箱に捨てる。
「あ! 提出しなくても、書いて保管していれば良いではありませんか……」
「それは流石に重いでしょ……」
そんなヤンデレみたいな事をして、悠人に嫌われたくは無い。
「貴方の写真コレクションよりは可愛いと思いますけど?」
「そ、そんな事無いわよ!!」
「いや……三日でまた増えてますよね?」
「うっ……だって! 丁度窓から見えるし……カーテン開けっぱなしの悠人が悪いのよ!!」
「騙される方が悪いって言う、詐欺師の言い分みたいね……」
「そっちの世界にも詐欺師って居るのね」
私の趣味が世間に知られたら、私のイメージなんて簡単に崩れ去るんだろうなぁ……。
「彩……何か悩んでいるの?」
「……別に……何でも無いわ」
「別な世界とはいえ自分なのよ……何か相談があれば、話してみて……力になれると思うわ」
「……そうね、そのうちね」
*
彩と話した翌日、今日は金曜日だ。
明日は休みで、彩と約束した買い物に行く日の前日だったりする。
そんなデート前の男の行動はただ一つだ。
「ねぇ悠人」
「なんだ?」
「明日……誰かとデート?」
「……は、はぁ? ち、ちげーし……何言ってんだし……」
「いや、スマホの検索に思いっきり【デート おすすめ コース】って打ってるじゃん」
しまった、スマホを見られたのか……。
今度から覗き見防止の保護フィルムにしよ……。
「で、デートなんてもんじゃないが……ちょっと女子と買い物にな」
正確には買い物と言う名のデートを本物のデートにしようとしている。
買い物が終わった後に、お洒落なカフェとか連れてけば、彩からの好感度が上がるかと思っただけだ。
「誰とデートなんだい?」
「えっと……知り合いの知り合いの女の子だ」
「へぇー随分遠いんだね」
「ま、まぁな……」
「上手くいくと良いね」
「あ、あぁ」
「……無いわ」
「本当か?」
「無いわよ……」
そういう彩の顔は何か戸惑っている様子だった。
しかし、本当にそれで後悔は無いのかと問いただしたところで、彩の気持ちを変えられる訳でも無い。
俺はそれ以上は何も言わなかった。
「そろそろ帰って寝よう……時間も遅いし」
「うん……じゃあ……お休み」
「あぁ……」
俺は彩に別れを告げて、繋いでいた手を離す。
彩の表情はなんだか寂しそうだった。
しかし、もう時間も遅い。
彩だって早く休息を取りたいはずだ。
「じゃあ、お休み」
「うん、お休み」
俺と彩はお互いにそう言い、自分の家の中に入って行った。
「……彩……それで良いのか……」
俺は彩がアイドルをやめることについて考えていた。なんで今まで頑張ってきたことを簡単に捨てる事が出来るのだろうか?
目標を達成したと言っていたが、その目標とは何なのだろうか……。
俺はベッドに寝転びながらそんな事を考える。
そして考える度に、彩のあの複雑そうな横顔が脳裏に浮かんだ。
「で! どうだったの!?」
「……まだ居たのかよ……」
俺が考えごとをしていると、ユートが興奮した様子で現れた。
帰ったんじゃねーのかよ……。
「どうだったんだよ!」
「何がだよ……」
「進展はあったのかって聞いてるんだよ!」
「あぁ……まぁ……」
「プロポーズは!?」
「するかっ!!」
*
私は部屋に戻り、ベッドの上で明日の予定を確認していた。
明日はバラエティー番組の撮影が一つだけ。
帰りは恐らく遅い。
「……はぁ……またなのね……」
また学校が終わったら直ぐに仕事……。
アイドルは大変だ。
仕事は毎日あるし、一日仕事が無い日が珍しい。
でもそれは、私の人気があるからだ。
人気の無い芸人さんやアイドルの人たちは、営業に行ったり、仕事を取るのに必死だ。
それなのに私は……。
「……こんな事……他の人には言えないなぁ……」
人気があり、仕事もある。
それなのに引退したい。
普通だったら、もったいないとか、これからだ、なんて言うけど、私はそれで良いのだ。
そう……思っていた。
「本当に……良いのかな……」
やめると言った手前、私は悩んでいた。
先ほどの悠人との話しの中で、もしかしたら悠人はアイドルである私が好きなだけで、アイドルで無くなった私には興味が無いのではないのかと……。
「ライブのチケット一枚で……あんなに喜ぶなんて……」
私は久しぶりに握られた手の感触を思い出すように、自分の左手を右手で包み込む。
私の気持ちは変わらない。
私は悠人が一番好き。
アイドルが特定の異性を好きで居ることは許されない。
アイドルはファンである皆のものであり、誰か一人のものでは無い。
それがアイドルなんだと私は思っている。
だから、私にとってアイドルという肩書きは邪魔だ。
「彩、悠人君とは話せた?」
「……また来てたの?」
いつの間にか部屋にはアーネが入って来ていた。
私はため息交じりにアーネに答える。
「うん……楽しかったわよ……」
「そう! なら早速これを使って既成事実を!」
「だから! 婚姻届は早いの!」
私はアーネから婚姻届を奪い取り、そのまま丸めてゴミ箱に捨てる。
「あ! 提出しなくても、書いて保管していれば良いではありませんか……」
「それは流石に重いでしょ……」
そんなヤンデレみたいな事をして、悠人に嫌われたくは無い。
「貴方の写真コレクションよりは可愛いと思いますけど?」
「そ、そんな事無いわよ!!」
「いや……三日でまた増えてますよね?」
「うっ……だって! 丁度窓から見えるし……カーテン開けっぱなしの悠人が悪いのよ!!」
「騙される方が悪いって言う、詐欺師の言い分みたいね……」
「そっちの世界にも詐欺師って居るのね」
私の趣味が世間に知られたら、私のイメージなんて簡単に崩れ去るんだろうなぁ……。
「彩……何か悩んでいるの?」
「……別に……何でも無いわ」
「別な世界とはいえ自分なのよ……何か相談があれば、話してみて……力になれると思うわ」
「……そうね、そのうちね」
*
彩と話した翌日、今日は金曜日だ。
明日は休みで、彩と約束した買い物に行く日の前日だったりする。
そんなデート前の男の行動はただ一つだ。
「ねぇ悠人」
「なんだ?」
「明日……誰かとデート?」
「……は、はぁ? ち、ちげーし……何言ってんだし……」
「いや、スマホの検索に思いっきり【デート おすすめ コース】って打ってるじゃん」
しまった、スマホを見られたのか……。
今度から覗き見防止の保護フィルムにしよ……。
「で、デートなんてもんじゃないが……ちょっと女子と買い物にな」
正確には買い物と言う名のデートを本物のデートにしようとしている。
買い物が終わった後に、お洒落なカフェとか連れてけば、彩からの好感度が上がるかと思っただけだ。
「誰とデートなんだい?」
「えっと……知り合いの知り合いの女の子だ」
「へぇー随分遠いんだね」
「ま、まぁな……」
「上手くいくと良いね」
「あ、あぁ」
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