隣の部屋の裸族さん

Joker0808

第11話




新居に引っ越してきて、既に二週間が経過していた。
一人暮らしや新しいクラスにも慣れはじめ、クラスメイトとも良好な関係を築き始めていた。
今日は土曜日、俺は昼飯を作り終えると、部屋を出て隣の八島の部屋に向かった。

「おーい八島、飯だぞー」

俺がそう言うと、数分で八島が玄関から出てきた。

「ん、お待たせ」

「服着るのが面倒なら、部屋で裸で居るのやめろよ。昨日も着替えてる間に宅配の人帰っちゃったし」

「それは無理……」

「なんでそんな頑ななんだよ」

俺と八島は揃って俺の部屋に戻り、昼飯を食べ始める。

「給湯器の工事って明日だっけ?」

「うん……工事の人……来るから……服着てなきゃ……」

「それが普通なんだよ、なんでそんな嫌そうな顔すんだよ……」

「部屋で服着るの……気持ち悪い……」

「部屋以外ではなんで大丈夫なんだよ。お前の感覚どうなってんだ……」

「昔からの慣れ………」

「昔からそうなのか?」

「うん……お母さんもそうだった」

「マジかよ……遺伝かよ」

飯を食べながら、俺たちはいつも通り雑談を続ける。

「……ん、美味しい」

「そうか? なら良かった……」

「ん……もぐもぐ……」

「………ってそうじゃねぇよ!!」

「何が?」

「いや、何がじゃねーよ!! なんで普通にお前がうちで飯食ってるんだよ! しかも二週間!!」

「……食えって言ったのそっち」

「ま、まぁ……確かにそうだが……」

ここに越してきて二週間、こいつの食生活が壊滅的なほどに悪いことに気がついた俺は、気がつくと三食分の食事を二人分作る生活になっていた。

「お前がちゃんと飯を食わないからだろ! また、高カロリーなカップ麺ばっかり買い置きしやがって!」

「美味しい……」

「うるせぇ! しかも、二週間前に片付けた部屋はもう散らかってるし!」

「片付け……面倒……」

「少しは片付ける努力をしろよ!!」

「面倒……」

無表情でそう言う八島に俺はため息を吐く。 なんでこうなったのか、俺はなんやかんやで八島の面倒を見る日々が続いていた。
八島は飯も作れないし、片付けもしない。
俺はそんな八島を見て居られず世話を焼いていた。

「はぁ……まぁ、風呂は明日で直るから良いとして……少しは自分の事は自分でしろよ……」

「ヤダ」

「そんな堂々として言うな! 来週はクラス研修があるんだぞ……」

クラス研修とは毎年二年生と三年生が交代で行う行事で、言ってしまえは二泊三日の宿泊学習だ。
新しいクラス、新しい環境の仲間との結束やコミュニケーションを図る為に企画されているらしい。
毎年キャンプ場でキャンプをしながら、オリエンテーションなんかをやる。

「お前大丈夫なのか?」

「何が?」

「いや、友達とか居るのか? 宿泊研修で裸になったりしないだろうな?」

「大丈夫……去年は耐えた」

「耐えたってなんだよ……まぁ、それなら大丈夫だろうが……オリエンテーションだってあるし、少しはクラスメイトと仲良くしておけよ」

「ん……」

俺の話を聞き、八島はこくりと頷く。
本当に分かっているかは謎だが……。

「ごちそうさま……」

「はいよ、お粗末様」

「ん……ねむ……」

「食べて直ぐ眠くなるって……お前の体はどんだけ単純なんだよ」

「ベッド貸して……」

「はぁ……またかよ……使えよ」

「ありが……と……」

「おい! まだ寝るな! せめてベッドで寝ろ!!」

「ん……よいしょ……」

「服を脱ぐな!」

俺は服を脱ごうとする八島を止め、八島をベッドに誘導する。
こいつが俺をベッド使うのは珍しくない。
もう何回も俺の部屋で寝ている。
いや、変な意味では無い。

「おい、俺はちょっと買い物行ってくるからな、起きたら自分の部屋に戻れよ」

「う……ん……」

「あと、鍵掛けとけよ」

「ん……」

「はぁ……まったく……」

俺は八島にそう言うと、準備を済ませて部屋を後にした。
八島には俺の部屋の合鍵を渡している。
給湯器が壊れ、俺が居ない時でも風呂場を使えるようにと渡したのだ。

「さて行くか」

今日の買い物は来週の宿泊学習用の買い出しだ。
下着や洗面道具など、これを機に新調しておきたかったのだ。
俺は一人でショッピングモールに向かい、目的の物を探し始めた。

「えっと……まずは下着か……」

俺はショッピングモールの案内板を見て、一番近いアパレルショップに向かった。

「あれ? 木川君」

「ん? 上屋敷じゃないか」

アパレルショップに向かう途中。
俺は同じ委員会の上屋敷と合った。
どうやら上屋敷も一人らしい、買い物だろうか?

「奇遇だねぇ! 何やってるの?」

「来週の宿泊研修の買い物だ。上屋敷は?」

「私はちょっと買い物。友達誰も捕まらなくてさ~、一人で寂しかったところ」

「おい、それは俺に付き合えってことか?」

「うん!」

「満面の笑みで何を言ってんだよ……」

委員会以外でも上屋敷とは学校で会う度にちょくちょく会話をしていた。
かなり良好の仲ではあるが、休日に一緒に買い物をするのは、少しドキドキする。
そりゃあ、上屋敷も女の子だし、いくら仲が良いだけとは言っても女の子だし……。

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