日本は異世界で平和に過ごしたいようです

こああい

第61話

王城


「トゥルからの返事は来たか」


バシナリウス八世は元来の親友である、トゥルという人物に手紙を出していた。


「はい。こちらがトゥル・スコット様からのお手紙です。どうぞ」


バシナリウス八世は侍従から手紙を受け取り、手紙の封蝋を解いて目を通す。先日、彼は王城脱出後の協力者として、彼に協力を打診していた。


トゥルは帝国の有力貴族の息子であった。ただ、三男坊であったため親の爵位を継ぐことは出来ず、成人後は軍属になるか、聖職者になることになっていた。
一応貴族の息子であるため、基本的な教育を実家で受けることになる。その後、12歳の時にバナスタシア帝国が運営する、バナスタシア帝国軍下級士官養成学校に入学している。(勿論のことながら、この世界に国連の定める国際法などない)
下級士官養成学校は、下等兵が下士官へと昇格する際に入学するほか、貴族の幼い子が軍属を目指す際にも入学する。


一方、バシナリウス八世も帝国軍下級士官養成学校に同年度に同じく12歳で入学している。彼ももともとは帝位継承権が低かったため、士官学校に放りこまれた。


士官学校で出会った二人は、互いの境遇も相まって仲を深めていった。バシナリウス八世は統計学などを基に、図上での戦術を考えるのが得意であったのに対して、トゥルは現地にて戦術を運用する上で、発生した問題に対処する観察力などに優れていた。


結果、二人は互いの至らない点を補完しあうようになった。この関係は上級士官養成学校でも続いた。


しかし、バシナリウス八世は上級学校時代に帝国の政治に関わるようになっていった。彼が現在帝位に就いている功績のうち、その多くがこの上級学校時代に残したものである。


そして、バシナリウス八世は帝位継承権が上へとなり、上級士官養成学校を卒業すると、政治家として転身することになる。
だがトゥルは実家から完全にいらない子宣言をされていた。それで、陸軍のほうに進むことになると、陸軍将校養成学校へと進むことになる。


将校養成学校は、陸軍内での最高教育機関であった。入学が極めて難しく、周囲の同級生は現場部隊にて経験を積むことを選択している中で、彼は狭き門をくぐることが出来た。


その後、トゥルは将校養成学校を卒業して、陸軍准将として任官された。そして、実践などの経験を積むこととなった。


その頃、バシナリウス八世は父の死去したこともあり、帝国の帝位を継承することとなった。度々彼は旧友であったトゥルを呼び出し、晩酌を交わしていた。するとある時、彼に絶家したスコット辺境伯の爵位を付与した。


彼の思惑としては、国内の爵位争いの鬱陶しさを解消する狙いと、オルスター王国との戦争が再度勃発した際に、現場で持ち前の能力を発揮することを期待したのである。もちろん私情も挟まってはいたが。




「しっかし、トゥルにこんな形で助けを求めることになるとはな...まぁいい。」


バシナリウス八世は手紙を読んで、現在の自分の立場に呆れながらも、手紙の返答を書いた。
トゥルはバシナリウス八世の考えを理解していた。バシナリウス八世は、トゥルに現在の戦況を打破することは難しいことや、日本軍と対等な戦いを展開できないという旨の考えを伝えた。トゥルも先の戦いで、自衛隊(日本軍)との圧倒的な戦力差を戦場で理解していた。その上で彼の亡命を受け入れることも表明した。


「失礼します!」


コンコンと扉が鳴り、執務室に誰かが入ろうとする。


「入れ」


「陛下、陸軍第2軍団が反乱軍に寝返ったとの情報が入りました」
「...わかった。最悪の場合、近衛兵だけで王城を防衛することも考えるか」
「そのほうがよろしいかと。帝都直属の第1軍団も、立場が不明瞭になってきています」


執務室に入ってきたのは、臨時の軍務大臣であった。軍務大臣は帝国陸軍の主力部隊である、第2軍団の喪失を告げた。
第2軍団はバナスタシア帝国の北部に位置し、属国・保護国が反乱した際に備える部隊であった。
日本との戦いを経て、属国が解放されてしまったために、最近は主力として軍備を強化していた部隊でもある。


「もう我々には200人ほどの近衛兵しか兵力が残されていないというわけか。日本軍の救出も時間がかかるだろうしな」
「陛下、近衛兵は我々の脱出後どうなさるおつもりですか?」
「第1大隊(50人ほど)は日本軍のヘリで連れて行ってもらえることになっているが、残りの2~4大隊は連れていくことは出来んな...」
「彼らを見殺しにするおつもりですか?」
「いや、そんなに自分が落ちぶれているとは思っておらんよ。王城の通路からスコット辺境伯に向けて脱出してもらう。スコット辺境伯までたどり着ければトゥルが匿ってくれるはずだ」
「しかし、飛竜部隊を持つ第2大隊はともかく、第3・4大隊を反乱軍の連中が見逃すわけありますかね」
「まぁそこは助かることを祈るしかないな」




軍務省


「まだ王城を開城できぬのか!」


そう怒鳴り散らすのは、反乱軍トップである帝国軍副司令官のゲイツである。


「ハッ!なにしろ王城はすべての門が閉ざされており、内部には近衛兵が多数存在しており、突破は不可能かと」
「強引に突撃できないのか?」
「城門の内側には戦車や火炎放射機が設置されていました。突撃した場合の被害を考慮すると...」


すると、その場にいたトルマン王国の使者が口を開く。


「まぁ、そこまで焦る必要はありませんよ。籠城戦になれば、防衛側が不利になるのですから。我々が手を出さずとも開城できるでしょう」


「そうですよ。王城の周りはすでに包囲を完了しています。我々が絶対優位の状況です」


ゲイツは数瞬の間思考を巡らせた後、落ち着きを取り戻す。


「ところで、オルスター王国とニホンへ差し向ける部隊は出そろっているのか?」


ゲイツからの問いに、まずは陸軍司令部の担当者が説明する。


「では我々陸軍から。オルスター王国へ派兵する部隊は南部方面軍の第4軍団を招集しております。また、陸軍先進研究所に命じていた大型戦車も試作型が完成したため、投入を開始する予定です。また、スコット辺境伯に支援物資等の準備を命令しております。また、ニホンへは第1軍団隷下の飛行隊と第4軍団の飛行隊を出撃させます。そしてこの第2軍団の飛行隊ですが、先日トルマン王国より受領した、新型の飛竜を装備しております」
「戦車は試作段階か...やや不安が残るが良かろう。第1軍団の飛竜の戦果を聞けるのを心待ちにしてるぞ」


「続いて海軍から。オルスター王国に対しては、2個艦隊を出撃予定です。しかし、すでに第2・6艦隊を喪失していることや、シーランド方面の警戒に向ける艦も考慮して、ニホンへ向けれる部隊はせいぜい1個艦隊です」


帝国近辺を記した地図を指しながら海軍総司令部の担当が説明をする。
そこに、元情報局長が具申をする。彼も投獄から解放され反乱軍の一員として活動することとなった。


「前回の戦いでは第2艦隊が降伏してますからね。多分この兵力では無駄死にさせるだけではないかと」
「そうですねぇ。魔法部隊もあまり有効とは思えませんし」


「なら、情報局の部隊を投入したらどうだ?情報局は反乱軍に入れているしな」


「んーと。ゲイツ殿。確かにその通りなのですが、情報局は工作をする機関ですので戦場の前線に立てというのはいささか無理がございます」
「ふむ。それもそうだな。ならニホンを確保すればいい」
「おっしゃられている意味が分からないのですが」


ゲイツは地図を指さしながら、再度説明をした。


「ニホンの細々とした島を占拠して、そこで一旦準備を整える。そして我々の敗因の一つともいえるのが敵の航空戦力だ。あの正体不明のヤツに対処するために、占拠した島に対空戦力を設置すればいい。艦隊の防空能力もさらに向上させなければならないが、陸だったら竜母から発進させる飛竜よりも大型のが使える」
「...一理ありますね。魔導機銃も近距離の移動でしたら数丁搭載しても飛竜も耐えられるでしょうからね」


元局長はこの作戦におおむね同意した。


「というわけで。情報局には島の占拠を行ってもらいたい」
「わかりました。しかし、詳細のわかる地図をいただけるとうれしいのですが」


すると、トルマン王国の空軍軍人が口をさす。


「確かオルスターの諜報部隊よりニホンの地図が入手出来ていたはずです。版画で複写したものをお渡しできると思います」
「それはありがたい」


すると、部屋にトルマン王国軍の服装をした者たちが入ってくる。


「おっ。ちょうど来ましたね。もともと配布する予定でしたので是非ご活用ください」


全員の手元に日本地図を複写したものが配布された。


「ふむ。これはありがたい。さてどこの島を占拠するか」
「情報局の船は大規模な上陸作戦には適していませんので、この西側の細々とした島を占拠しつつ、部隊を集結させて一気に攻勢をかけましょう」
「では島を占拠した後は、飛竜部隊と上陸部隊を輸送するということで」




夜も更ける中、秘密裏に行われた会議は着々と進んでいった。

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