日本は異世界で平和に過ごしたいようです

こああい

第58話

『司令部よりJUPITER02(P-3C),敵艦隊への対潜爆弾の投下用意。上空援護機がそちらに向かっている』
「JUPITER02,Roger」
『司令部よりJUPITER01(P-1),敵情偵察をせよ。なお対空攻撃に注意されたし』
「JUPITER01,Roger.」


臨時国家安全保障会議では、敵艦隊が未だ停止ないしは転針しないことを受け、スクランブル発進した哨戒機の爆装による攻撃を実施することを決断した。これが高度に対空防御が発達した地球であったなら考えられないことだが、この異世界が未成熟な武器システムであることから、攻撃が決断された。


「機長,TACCO1。基地より攻撃命令を受領。これより攻撃進入に入ります」
「了解」


機長が、全員に攻撃の開始を告げる。


「オールクルー、攻撃進入開始」




P-3Cは高度を一定に保ち、プロペラ音を響かせながら敵艦隊へと夜空をまっすぐ進む。




「まもなく武器投下開始」


「投下開始」
機上武器員が投下の合図を出すとともに、手元のコンソールのボタンを押す。すると、P-3Cの爆弾倉から複数個の対潜爆弾が落ちていく。
「1回目投下終わり。2042、1回目攻撃実施した」
「了解。再度進入に入る」


P-3Cは進路を大きく変え、再び投下進路へと入るための旋回とひとまずの艦隊との距離を取る。


「43分、オールクルー、攻撃確認。敵艦数隻の炎上を確認」
「目標依然動きを見せていない。また対空戦闘の兆候も認められない」
「了解。進入を続行する」


「2回目投下準備」
「進入経路よし」
「投下開始」


再度機上武器員がコンソールのボタンを押す。
海上に浮かぶ艦隊をめがけて落下する対潜爆弾は、敵艦隊に大きな損害を与えた。ある艦は艦橋に命中し、艦の操縦が出来なくなったり、別の艦は船体が二つに割れてしまったものもいた。また、周辺の海面は大きな水しぶきをあげた。


「2回目投下終わり。2046、2回目の攻撃実施した」
「了解。再び進入経路に入る」
「TACCO1、あと2回で爆弾の残り無くなります」
「了解」


「攻撃進入開始する」
「投下スタンバイ...」
『司令部よりJUPITER02。Mission Cancel.繰り返す、Mission Cancel.』
「オールクルー、投下中止。投下中止」


司令部からの任務中止命令により、P-3Cは攻撃進入を中止して旋回しながら上昇する。


『司令部よりJUPITER02、敵艦隊が降伏の意思を示した。よって以降は現場海域監視を行え』
「JUPITER02、了解」




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バナスタシア帝国海軍第2艦隊


「艦長!上空から何か来ます!」


暗闇に佇む艦隊は損耗率が25%ほどであった。しかし、護衛艦らが射撃するどころか撤退を取ったため、第2艦隊は日本本土に向けて前に舵を取った。
しかし、日本が攻撃の手を緩めることは無かった。


暗闇の中、はるか上空から不気味に鳴り響く音(プロペラ音)の中、突然艦隊のあちこちで爆発が起きる。


「艦長、敵の魔法攻撃だと思われます!」
「こんな魔法攻撃があってたまるか!しかもいったいどこから魔法を放ったというのだ。とりあえず総員落ち着け!」


艦内は不意の爆撃に混乱していた。無理もない。なぜなら彼らは"爆撃(雷撃)"という概念を知らなかったのだから。しかも今は辺り一面が闇に包まれた夜間である。月光もあるが満月の時ほど明るくはない。


「被害報告!」
「航行不能2隻、中破8隻、小破15隻です。
「よ、よし。周辺を良く警戒しておけ!魔法探知機の履歴は残っているか?」
「いえ。全く何も残ってないです」
「わかった。もしかしたら日本軍が上空から爆発する魔石ないしはものを投下した可能性が考えられるな。上空の見張りもよくしておけ」
「了解」


少しの時が流れた後、再び悪夢のような音が聞こえ始める。


「総員!周辺警戒!」


艦橋に取り付けてある拡声器で艦全体に指令が伝わる。
しかし、その効果はなく、なすがままに攻撃を受ける。P-3Cの爆撃はきわめて正確で、艦隊全体での消耗率は40%に達しようとしていた。そしてそこに新たな艦隊が近づく。


佐世保基地を本拠地とする第1護衛隊群第5護衛隊と佐世保地方隊所属の第13護衛隊である。総隻数は6隻であるが、特に、ひゅうが型の2番艦、ヘリコプター搭載型護衛艦であるいせの迫力は遠目からも見て取れた。


「艦長、我が艦の後方にダメージがかなり来ています」


そう言った矢先に、船体が軋む音が聞こえてきて、心なしか体が傾く。


「ちっ…もうこの艦は捨てるしかないか。まだ進水してから5年しか経ってないんだがなぁ」


艦長は重いまなざしでそう答えた。すると、再度あのプロペラ音が聞こえ始める。


「艦長、またあの攻撃が」
「もうだめか。...降参だ。白旗を上げて砲を上空に向けろ」
「いいんですね、降参で。」
「あぁ。無駄な死者は出したくない。あと噂程度だが、日本軍は捕虜の扱いが我が国よりいいらしい。信じてみよう」


こうして、第2艦隊は日本に降伏をした。
この降伏は、いせから飛び立った救難ヘリから即座に確認され、防衛省に伝わった。また、救難ヘリから機外スピーカーより降伏の旨の確認と、警告が行われた後に、艦隊の制圧が行われた。




第1艦隊


「艦長、第2艦隊が日本軍に降伏しました」


第1艦隊の旗艦である戦艦内では、第2艦隊の降伏の事実が伝わった。


「ちっ。あの意気地なしが。...司令部に報告しろ。第2艦隊が降伏したとな」
「我々はどうしましょうか」
「あまり考えたくはないが、我々は戦闘艦が少ない。第2艦隊に重点的に割り当ててしまったからな」


第1艦隊は第2艦隊から竜母や病院船を引き抜いた代わりに、第1艦隊の保有する戦艦、巡洋艦などの半数近くを第2艦隊に編成した。
これは、海軍司令部が第2艦隊に制海権をいち早く確保するように行ったものであった。
しかし、第2艦隊を喪失した今、第1艦隊がこのまま突撃しても破滅する未来しかないのは、誰の目から見ても明白だった。


「全艦に通達、帝国へと帰還する」


第1艦隊の旗艦の艦長は、帝国への帰還を指示した。


「艦長、よろしいのですね?」


「ああ。司令部のクソったれに問いただされるだろうが、なんとかするよ」




第1艦隊の帰還は、監視を続けていた海自哨戒機も把握した。そのため、第1艦隊は自衛隊の攻撃を受けずに済んだのであった。



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