日本は異世界で平和に過ごしたいようです

こああい

第53話



防衛省
「大臣、九州の南西方面で国籍不明の50隻ほどの船団を海上保安庁の巡視船が確認したとのことです」
「マジですか。とりあえず初動対応で哨戒機を急行させて、現場の確認を行ってください」


17時01分。第7管区海上保安本部から、連絡を受けた防衛省も対応に当たっていた。


「その国籍不明の船団って近隣国の漁船じゃないですか?彼らにはEEZなど知るわけがないのでしょう」
「いえ、まだ船団の艦種は特定できていません」
「とりあえず海上保安庁に対応をしてもらいましょう。最近こんなことは無かったのですがね」


しかし、その後現場に急行したP-3Cから、搭載されていた静止画像伝送装置を用いて船団の画像が防衛省に伝送された。
大臣室の扉が叩かれる。


「大臣、失礼します。哨戒機より船団の画像が来ました」
「ほんとか?で結局何だったんだ?」
「こちらをご覧いただきたいのですが」


大臣は見た画像に驚愕する。


「なんですかこれ。おもいっきり軍艦ではないですか」
「推測でしかなりませんが、この艦は地球換算で1910年台の巡洋艦になります。これは海保では対応できないかと」
「いま対応に当たっている巡視船は十分に距離を取らせてください。あと楠木さんに連絡を。あくまで軍艦だ。しかも地球では考えられない武器がある可能性も考慮してください」


18時52分、楠木国土交通大臣から"海上保安庁に有する能力を超えている"との連絡があり、官邸には対策室が設置されたのち、持ち回りでの閣議が開かれた。そして海上警備行動の発令がなされた。


巡視船おおみ
『貴船らは日本国の領海を侵犯している。直ちに南西へ退去しろ。繰り返す。貴船らは日本国の領海を侵犯している。直ちに南西に退去しろ』


巡視船おおみでは、第7管区本部より警告命令が出たため音声による警告活動が開始された。


「これ音声聞こえてますかね?」
「分からん。もう少し船を近づけろ」
「了解」
「船長、本部から警告射撃の許可が出ています」
「わかった。20mmの機関砲で効果があるのかわからんが、やってみよか」


『繰り返す。貴船らは日本国の領海を侵犯している。警告に従わない場合、貴船らに射撃を実施する。直ちに南西方面に転進しろ』


スピーカーを通じて警告が船団らに届けられる。この時すでに船団まで5Kmまで接近していた。
その時、上空にターボプロップの独特の音を響かせながらP-3Cが飛来する。すると、船団に動きがあった。


「おい、砲塔がこちらに向いたぞ」
「まずいな。あの口径の砲を食らったら間違いなくやられる。いったん離脱するしかないぞこれ」
「離脱、離脱!」


艦橋内で怒号が飛び交う。しかし、想定した最悪の事態が発生する。
巡視船に向けて巡洋艦から主砲が発射される。発射された主砲のうち、1発が巡視船後部に被弾する。


「被弾、被弾」
「畜生!砲塔に向けて機関砲を撃て!」
「本部に連絡が」
「るっさい!お前らをここで死なせるわけにはいかん!撃て!」
「はい!射撃開始」
「最大船速!いったん現在地より離脱しろ」


20mm多銃身機銃が、巡洋艦の前後の主砲に向けて放たれる。
水しぶきの上がるオレンジの海に、バルカン砲の動作音と数え切れないほどの閃光が放たれる。


「被弾状況の報告!」
「はい!後部の甲板に被弾、燃料の流出が発生しています」
「消火は...この状況下では厳しいな。エンジンは動いとるか?」
「はい。ただ燃料タンクに被弾しているため、連続航行は厳しいかと」
「とりあえず、応援の部隊が来るまでは応戦しなければならん。いけるとこまで頑張ってくれ。人的被害は?」
「幸いにも甲板に被弾したため、被害は転倒などの軽傷者数名です」
「それは良かった。手当てだけしといてやってくれ」
「了解」
「あと本部に連絡。当船が被弾したことと正当防衛による射撃を実施したことを報告してくれ」
『こちらは海上自衛隊である。応答願う』


そこに、P-3Cから無線が入る。
『こちら巡視船おおみ』
『おおみの被害状況の報告を求む』
『後部甲板が被弾。それによる燃料タンクの破損が発生。現在も燃料流出中。人的被害は軽傷者数名のみ』
『了解。現在当海域に護衛艦2隻と巡視船艇が12隻急行している。自力での帰還は可能でしょうか?』
『燃料タンクが破損している以上、長くは持ちません。曳航してもらうしk』


しかし、おおみに砲弾は無慈悲にも命中する。


「船長だめです!船体が」


おおみは2発目の命中に耐えきれず、船体に大きな亀裂が走った。


「畜生!無効化できなかったか。救命胴衣を付けろ!」
「だめです!ダメコン間に合いません」
「総員、脱出準備!」


船内には海水が勢いよく流れこんで、警報が鳴り響く。


『こちらおおみ。現在船体が浸水中、まもなく沈没』


18時56分、これが巡視船おおみの最後の通信となった。




第2艦隊 旗艦
「艦長、日本国土まであと2日ほどです」
「うむ。報告ご苦労。しかしながら夕日がきれいだな」
「ええ。にわかにもその日本という国が転移してきたとは信じがたいですね」
「それに、ベロネ教圏の艦隊が参戦するとは思ってもみなかったな」
「ああ、あの謎の国"シノブレイド宗主国"が許可したのですかね?」
「分からん。俺自身はこの船の艦長と、バナスタシア帝国海軍第2艦隊の司令官でしかないからな」


艦橋で夕日を眺める、中年のダンディーな男はこの第2艦隊の司令官である。彼は、下等兵からのたたき上げで中将まで上り詰めた実力者である。対照的な例としては第1艦隊の司令官は、代々政府の要職に就く一家の人間で上級士官養成学校(卒業後に上級大佐に任官、その後少将となる。)を修了して、まだ5年とたたない若輩者である。
艦長は艦隊司令と二つの役職を持っているが、これは本人きっての要望で、現場で指揮を執るという決意を表明している。このため後方の司令部には副司令官が詰めており、司令部の方で決断しなければならない案件は一任されている。この副司令官は下級士官養成学校(卒業後少尉に任官)から少将まで上り詰めた経験豊富な人物である。


そんな経歴を持つ艦長は部下からも大変慕われており、よくその見かけに反する朗らかな性格も相まって、よく部下と楽しく雑談を交わしていた。


そんな会話中の彼らに報告が入る。


「艦長!我が艦隊より東に日本軍所属とみられる船を発見いたしました」
「ん?何隻だ?」
「1隻のみです」
「1隻だけか?わかった。敵艦の動向は常によく確認しておけ。後方の第1艦隊に伝令、偵察要請を出してくれ」


第2艦隊は竜母を率いていなかった。理由としては、そもそも竜母自体がまだわずかにしか配備されていなかったことと、第2艦隊が先陣を切ることになるため、航空支援を主体とした艦を配備する意味もないのである。制空権確保がしたかったら後方の部隊がやるべきことである。




『我々は海上保安庁である。貴船らは日本国の領海を侵犯している。直ちに南西へ退去しろ。繰り返す。貴船らは日本国の領海を侵犯している。直ちに南西に退去しろ』
「日本軍が何かほざいてますが、どうしましょう」
「あんなちっこい船構わんくていいだろう。見た感じ大砲も積んでいないしな。というか前情報では日本海軍の軍船は灰色だったろ。」
「確かそうですね。分かりました。このまま進撃します」


巡視船は、艦隊に対して警告を継続する。そのとき、上空からプロペラ音が聞こえる。


「おい!なんだこの音は!」
「分かりません!」
「総員、周囲警戒!」
「艦長!もしかしたらあの日本海軍の船が攻撃を仕掛けようとしているかもしれやせん」


艦隊側は、高度4000mほどから接近するロービジ塗装のP-3Cを認識できなかった。


「大規模魔法攻撃か。確かにその可能性があるな。大砲撃てるか?」
「撃てます!」
『戦艦及び巡洋艦に通達。主砲発射用意。目標、左舷の日本海軍軍船。一斉射』


各巡洋艦の砲塔が一斉に巡視船に向けてゆっくりと回転する。


『全体撃て!』


艦隊左側の巡洋艦・駆逐艦数隻から巡視船に向けて大砲が発射された。



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