日本は異世界で平和に過ごしたいようです

こああい

第51話



翌日


首相宛ての主要国代表会議に関する書簡を受け取った一行は、日本への帰路に就いた。シーランド共和国で返事を出さなかったのは、現場には海上自衛隊の人間しかおらず、日本政府の人間が回答すべきとの観点からである。
そのため、1か月後の海自の訪問を約束した。


第8護衛隊の護衛艦ちょうかい・すずつきは北青原基地に向けての進路で、バナスタシア帝国の経由を行うこととなった。バナスタシア帝国に自衛艦がどの港に入港できるかの調査を担当することとなった。なお、港湾設備の検査を第8護衛隊が、海洋調査を第1海洋観測隊から海洋調査艦「しょうなん」が担当することとなる。


駒門駐屯地


「捧げー礼!」


隊員たちが機甲教導連隊長に敬礼をする。連隊長は訓示を述べる。


「皆さん、まず初めに3か月の前期教育修了を心からお祝いする。それと共に、諸君ら80名はオルスター王国陸軍の兵士であるとともに、陸上自衛隊の機甲教導連隊の一員として訓練に臨んでもらいたい。
諸君らは、これから74式戦車の訓練に励むことであるが、我々は諸君らを決して手加減することなく教育する。その点十分心得てほしい。
我々陸上自衛隊が、先の対バナスタシア帝国作戦で力を発揮できたのは、日々の地道な訓練の上に成り立っている。戦車は戦車そのものの能力ではなく、戦車を動かす人間、その人間の練度が強さとなる。無論、日々のメンテナンスも欠かせない。
諸君らには、己に戦車に対する技術を身に着け、オルスター王国陸軍においても、グループを引っ張る者として歩んでいけるよう願う。以上を以て訓示とする」
「一同、礼」


オルスター王国陸軍から戦車の乗員となることを志した者たちは、3か月に及ぶ自衛官候補生課程(旧名称:前期課程)を終え、いよいよ特技課程が開始される。前期教育で王国陸軍の兵士らは鬼のような教育を経て、いよいよ戦車に乗る第一歩を歩める。
というわけで、屋外から室内に移動した彼らは、まず学科講習から始まる。これから3か月にわたって戦車の扱い方を学んでいくことになる。
彼らの日本国での立場はオルスター王国陸軍からの留学生となっているのだが、政府によってその事実は隠蔽されている。日本政府は一時的に海外渡航制限をかけており、外国人、それも未知の国の人間となれば注目が集まるのは必然であり、リスク回避のための隠蔽であった。


なお、74式戦車の教育は終了していたのだが、わざわざ人員と74式戦車を調達してきて教育を行うこととなった。この経費も日本政府はオルスター王国に請求するつもりである。
彼らが乗ることになる74式戦車(WE型)は開発に1~2年かかると試算されているため、当分は寿命が残っている74式戦車を乗り回す予定である。これでも比較的短期間になるとみられているのは、防衛装備庁になり、統合的に研究開発を行えるようになった賜物である。


ちなみに、一番開発に時間がかかるとされているのは、パワーパック関係だったりする。74式戦車に適合するサイズのパワーパックの開発もしかり、換装した際に足回り全般を交換することが予定されているので、その交換期間も含めると、かなり時間がかかると試算されている。




バナスタシア帝国軍 総合司令部


とある夜に総合司令部に3騎の飛竜が飛来した。その飛竜を司令部の人間たちは歓迎する。


「ようこそ。王国軍副司令官ゲイツ殿。歓迎いたしますぞ」
「どうぞよろしく。軍務大臣殿」


握手を交わしながら、両者は席に着く。


「早速ですが、交換条件の交渉と行きましょう。唐突ですが我々軍幹部は今の皇帝に不満を抱いているのですよ」
「なんですか急に?でも貴国の皇帝陛下はたいへん優秀な御仁だと伺っていますが?」
「確かに陛下は素晴らしいお方である。特に国内政策に関しては過去最高かもしれない。だが対外関係はちょっと弱腰すぎるのだ。特に日本国に対しては今までの威勢がどこに行ったのかと疑いたくなる」
「確かに日本国は強敵であると思う。だが陸軍は作戦如何では勝利できるはずである。そこで貴国に協力を依頼したのだ」
「確か内容は、帝国の最新陸軍兵器の譲渡の代わりに、我々の空軍が配備する長距離飛行可能な翼竜を引き渡す、で合っていますかな?」
「それで合っている。それと頼みなのだが、このことは極秘で頼みたい。日本にばれるのは何としてでも避けたい」
「なら我が国の基地を一時的に利用してもよいとしましょう。貴国と我々は同盟なのですから」
「ご配慮ありがとうございます。ではこちらは中型戦車2号型と大砲戦車2号型の手配を進めます」
「こちらも手配を進めておこう」
「では本日はありがとうございました」


両者が握手とハグを交わした後、王国軍副司令官は会場を後にした。
そして、その会場に別の集団が現れる。


「よし、全員いるな。ではこれから陸軍上級幹部会議を始める」
「「「すべては帝国のために」」」


会議室で男たちは不気味な夜を過ごした。

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