日本は異世界で平和に過ごしたいようです

こああい

第34話

政府官邸
「ではこれより定例記者会見を行います」


佐藤官房長官が檀上に立ち、記者会見を行う。
今日の話題は、先日より発動中の自衛隊の防衛出動に関しての情報である。
昨日までは防衛機密上、オルスター王国に陸上自衛隊第21師団と海上自衛隊の第1護衛隊群が展開したこと以外は報告してこなかった。
しかし、本日は開戦したことと、それに伴う自衛隊の活動について報告される。
防衛省の管轄ではあるはずだが、事態の重要性を鑑みて官房長官が発表することとなった。


「我が日本国は、先週のバナスタシア帝国からの宣戦布告により自衛隊をオルスター王国に展開していました。そして昨日の朝よりバナスタシア帝国陸軍のオルスター王国侵攻が開始されました。それに伴って、自衛隊は先日から発動していた防衛出動待機命令より、自衛隊法第76条に基づき防衛出動に切り替えるとともに、バナスタシア帝国陸軍との戦闘状態にはいりました。
また、海上自衛隊はバナスタシア帝国海軍からの攻撃を受け、正当防衛射撃を実施したとの情報もございます。詳しくは防衛省の会見で」


記者団から質問は、今回の事案についての政府の見解に関しての質問のみと限定された。そうしなければ、佐藤自身としての見解などが質問されかねないからだ。それは佐藤自身が避けたかったのである。
理由はいろいろあるが、某新聞記者などにさんざん悩まされてきたからでもある。


さて、今回の会見について各新聞等の反応は大きく分かれた。
リベラル系新聞は、"有野政権はバナスタシア帝国への侵略戦争を行った。自衛隊は人殺しを行った"etc...と現政権や自衛隊を批判するような報道をした。
対して保守系新聞は、"初めて自衛隊の真の存在意義が発揮された。これはれっきとした自衛権の行使である"etc...と戦闘行為こそあまり喜ばしいことではないが、きちんと自衛隊は役目を果たしたという趣旨の報道を行った。


そして現政権は今回の事案に関して、国民の真意を問うため衆議院の解散を行った。また、衆議院議員選挙を経た後、いまだに発動中である防衛出動に関する国会の審議を行うこととなった。
※まだバナスタシア帝国との講和等を行っていないため、防衛出動は終了していない。




一方そのころ、オルスター王国に展開していた陸上自衛隊第21師団は撤収作業に取り掛かっていた。第21師団司令部はバナスタシア帝国軍側の反撃の兆候が見られないとして、一部の部隊を残して撤収を命じた。
理由としては、部隊を常時に展開するのは食糧、燃料などの消耗が激しいからであり、現在物資不足に陥っている日本の事情を鑑みると、速やかに撤収せざるを得なかった。


大きいエンジン音を上げながら、カマス港に向け撤収する車両を残留する自衛官とオルスター王国陸軍の兵士らは見守る。
オルスター王国陸軍の兵士らは自衛隊に憎悪の念ではなく、感謝していた。バナスタシア帝国陸軍の想定を超える戦車・火砲を目撃した兵士らは自分たちでは対処できないと悟っていたのである。
もちろん、王国陸軍の幹部クラスの人間は面子がつぶれて複雑な感情ではあったが。


現地に在留した部隊は、1個普通科中隊、1個重迫撃砲小隊、1個特科中隊、2個戦車小隊(すべて10式)と少数の高射特科隊、通信隊、後方支援隊、施設隊であった。
特科中隊はわずか4門のFH-70、高射特科隊に関しては、93式近距離地対空誘導弾を2セットと87式自走高射機関砲を1両という、全部隊が集結した時と比べれば、いささか不安になる装備であった。
航空戦力はすべて撤収したが、一部の機体は北青原駐屯地に一時的に駐屯することとなった。


バナスタシア帝国 国務行政室


「どういうことだ!」


声を荒げる一人の男。その男はバナスタシア帝国の最高権力者であるバシナリウス八世その人であった。
バシナリウス八世は先代の皇帝と側室に生まれた帝位継承権が低い子供であったが、持ち前の頭脳を用いて帝国の発展に大きく貢献した。
その手腕を発揮したのは、政治・農業・軍事等問わず民衆からも若くしながら支持は高かった。
そのことを知った先代皇帝は、帝位継承権を1位にしたという。
ほかの帝位継承権保持者からの反発などもあったが、そこは先代皇帝の説得や、高位なポストを約束することで無事抑えたという。
性格も、普段は非常に温厚な性格で側近からも慕われる人物であった。


しかし、御年40過ぎの彼が今、激昂していたのである。無理はないのだが。


「なぜ我が国の陸軍がこんな惨敗をするのだ!俺も直々に軍の改革を行ったにもかかわらずだ」
「あ、あの。我が軍がオルスター王国領に侵攻している最中に、視角外からの攻撃にさらされまして」
「うるさい!魔法の探知を怠っていなかっただけじゃないか」
「いえ。対魔法探知機は正常に動作していました。動作記録も回収いたしました」
「なんだと?じゃあなんで攻撃を受けたんだ!」
「そ、それは」


バシナリウス八世が激高している中、陸軍幹部は応答する。


「あの、上空からの攻撃にさらされたのでは?」


そこに、飛行隊隊長が疑問を呈す。


「いや、我が隊は制空権を確保していました」
「じゃあなんで上空からの支援をよこさなかった!」


今度は陸軍の幹部が激怒する。


「それは、制空権確保のための対空装備に特化した飛竜を飛ばしていたからですね。対地するなら別途装備しなければいけませんし、対空装備の魔導機銃を乗せただけで飛竜は手一杯です」


整然と反論する飛行隊隊長。


「そんなことはどうでもいい。とりあえず我が国は陸戦に特化した国家だ。新型の歩兵装備と大砲を投入してかまわない」
「本当によろしいですか?最悪敵に情報が漏れますが」
「そんなことより我が国が負けることの方が問題だ。各軍は攻撃日程と作戦を徹底的に練り直せ。絶対"ニホン"に勝つぞ」


バシナリウス八世は徹底的に勝利をもぎ取ろうと画策したのであった。

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