日本は異世界で平和に過ごしたいようです

こああい

第3話

王歴252年 10月5日 午後4時
オルスター王国軍第三飛行群本部
「隊長、報告です」
「うむ。入ってきてくれたまえ」
執務室で作業をしていた、軍人のような体格をしたカトラス・タートル少将のもとに報告が入る。
「我が基地より北方300キロに未確認の陸地が視認できたと定時哨戒していた第5飛行小隊から報告が上がりました」
「何?陸地などないはずだぞ?隊員の誤認じゃないのか?」
「はい。小隊員全員が証言していますので、その可能性は低いかと」
「分かった。次の定時哨戒の時に2個小隊を派遣して件の陸地の偵察をしてきてくれ」
「了解しました。しかし我が飛行群の飛竜では非常事態への戦闘能力に不安が残りかねます。定時哨戒ですら飛竜の体力的問題で不安があるというのに」
「それなら、翼竜を出すか?」
「2騎だけでも出動させるのが賢明かと」
「ではそのように手配してくれ」
カトラス・タートル少将は不思議に感じていた。なぜ、陸地が突然発見されたのかと。今までの定時哨戒でそのような報告は聞いたためしはなかったためだ。


その後、午後5時ごろ、6騎の飛竜と、2騎の翼竜が第三航空群の基地から隊列を成して未確認の陸地に偵察に飛び立っていった。




緊急発進したF-15J
「こちらELBOW01、あと二分で現場空域に到達する」
「了解した。対象の現在の速度は154kt、高度は1500ft」
「154ktだと?ラジャー」
F-15Jの二人のパイロットは、154ktという失速寸前の飛行を要することに困惑していた。




「こちらELBOW01、Bogeyを視認した」
「了解。対象の詳細は?」
「え~、ドラゴン?であると思われます。ドラゴンには人が騎乗しています」
「え?あ、了解。無線通告を実施せよ」
「了解、しかしこちらは操縦は難しく、視覚信号の発信は不可能。領空侵犯時に際して、ヘリコプターでの増援を要請する」
「ヘリコプター?了解。すぐさま防衛省に通告する」


その後、国際緊急周波数の2つの周波数で警告が行われた。


『貴機は日本領空に接近しつつある。速やかに針路を変更せよ。』


だが、無線など搭載していない飛竜及び翼竜には日本側の意思が伝わることはなかった。




防衛省 統合幕僚監部
「スクランブルした空自機より、無線通告の効果はなしとのこと」
「そりゃ、そうだろうな。航空機じゃないんだから」
統合幕僚長はあきらめたようにため息をつく。
「なお、空自機よりヘリコプターでの増援要請が来ています」
「なんでヘリコプターなんだ?」
「なにせ対象の速度が遅すぎますからね。ジェット戦闘機じゃ失速速度ですよ」
「そうか。分かった。現場付近の出動できるヘリ部隊はどこか?」
補佐官がタブレットににらめっこしながら答える。
「運のいいことに明野の第5対戦車ヘリコプター隊が夜間飛行訓練を行っています。ここからだったら出せます」
「分かった。すぐさま出動させてくれ」


首相官邸 閣議
「続報です。スクランブルした空自機より無線通告の効果は認められなかったそうです」
日野防衛大臣が続報を入れる。すると、閣僚から質問が相次ぐ。
「対象はどんな生き物だった?」
「暗くてあまり鮮明とはしなかったそうですが、ドラゴンではないかと」
「おいおい...やはり異世界に来てしまったんかねぇ。」
「総理。まだそうと決まったわけではありません」
「ちなみに、対領空侵犯措置はヘリコプターで引き継ぐそうです」
「分かった。それが大方終わったら緊急で記者会見を開くとしよう。よろしいか、佐藤官房長官」
佐藤官房長官は、いつも通りの無表情で答えた。
「かしこまりました」




第5対戦車ヘリコプター隊機
AH-1Sが編隊飛行をしながら現場に急行する。第5対戦車ヘリコプター隊の隊員たちは、これが初めての緊急出動だったためいささか緊張している。


『統合幕僚監部より   警告に従わない場合、信号射撃を実施せよ。攻撃された場合には正当防衛射撃を許可するとのこと。ただし正当防衛射撃では機銃のみ使用せよ 以上』


無線で指示が入る。陸上自衛隊のヘリコプターに対領空侵犯措置が下されるのは、異例中の異例だが、非常事態宣言が発布されていることを理由にした。
「なぁ、報告ではドラゴンって言ってたけど大丈夫かよ」
「つべこべ言わず任務だ」


数分後
「対象を視認した。これより追尾に移行する」
飛竜及び翼竜の集団の後ろにAH-1Sの編隊がつく。ちなみにすでに領空侵犯をしているため、信号射撃許可が出ている。
いちおう、こちらも無線警告を実施する。


『警告。貴機は日本領空を侵犯している。速やかに領空から退去せよ。』
『警告。貴機は日本領空を侵犯している。我の指示に従え。』
『You are approaching Japanese airspace territory. Follow my guidance.』


やはり意味はないようだ。しかし相手側にとある変化がある。FLIRから相手側の人がこちらに向けて何かしゃべっている様子がうかがえる。


『こちら1番機。対象に動きあり』
『こちら3番機。対象から音声が聞こえる』


対象集団から何か音声が聞こえる。各機が耳を澄まして聞く。


〈我々はオルスター王国軍第三飛行群である。今の我々には反抗の意思はない。繰り返す。我々はオルスター王国軍第三飛行群である。今の我々には反抗の意思はない。〉


『対象より声明を確認。オルスター王国軍第三飛行群と名乗るもので、反抗の意思がないとのこと。』
『了解。周辺基地への強制着陸を実施せよ』


司令部より命令が下ったため、手信号にて意思疎通を図る。


〈貴殿についていけばいいのか?それならば、我々に攻撃しないことを約束していただきたい〉


司令部に確認した後、了承の意思を伝える。


その後、八尾飛行場に着陸したオルスター王国軍第三飛行群より事情聴取を開始することとなる。

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