魔導と迷宮~最強の冒険者は少女を育てるようです~

ノベルバユーザー465165

46話

 城の重厚な石造りの壁を抜けるとそこには数々の煌びやかな品が綺麗に並べられていた。


「ここは我が国が建国当初から様々な貴重品を保管している宝物庫だ。ここになら君たちの要望に応えられるものがあるだろう。見て回るといい」


 シンシアたちはその言葉に従い、広い宝物庫を徘徊していく。だが、ブラッドは周囲の品々よりも入口の仕掛けの方に意識が向いていた。ブラッドは空間を操る魔法を使えるため今いる場所がこの世界のどこかではなく所謂異次元であることを感知している。この場所は帝国の建国当初からあるということは少なくとも百五十年ほど前から存在していることになる。しかし、当時の魔導士にこのような技術はないはずであり、迷宮攻略も大して進んでいないはずなので迷宮産の魔道具というのも考え難い。そうなれば考えられる可能性は一つしかない。迷宮以外の場所に点在する古代文明の遺産だということだ。


 迷宮を含め古代からの遺物は各所に埋蔵しており、今現在であっても複製不可能な超技術的なものがほとんどだ。これもその一つなのだろう。そんな考えを迷宮攻略時の記憶を引っ張り出してブラッドは巡らせる。しばらく思考に没頭していたのか気づいたときにはシンシアが目ぼしいものを見つけ戻ってきていた。シンシアは持ってきたものは柄まで真っ白の白亜の剣だった。鞘には太陽の刻印が刻まれたおり、どことなく神聖な雰囲気を纏っていた。


「それか。中々のものを選んできたな」


「これはどういうものなんですか?」


「それは神国ので発見された<古代魔道具/アーティファクト>だ」


「え!そんなに貴重なものなんですか!」


 シンシアは目を丸くし、剣を落とさないように持つ手に力がこもる。


「まあな。だが、君がそれを選んだのなら君にそれを与えよう」


 シンシアはごくりと生唾を飲み込む。彼女はまだここが大国の一つである帝国がどれだけの財を保有しているのかを正しく認識できていなかったようだ。


「そこまで緊張しなくてもいいのですよ。古代魔道具といっても武器の類は人気がなく金銭的な価値も大したことはありませんから」


 コルネットがシンシアに優しく語り掛ける。シンシアは揺れる瞳でコルネットを見上げる。


「そうなんですか?」


「古代魔道具の中でも武器は使い手を選ぶの。武器に認められた人間しかその性能を引き出せないどころか抜剣さえできないのよ。だから、扱いに困るの」


「それでは私がこれを使えないという可能性の方が高そうですね」


 シンシアは安堵の吐息を漏らしつつも、どことなく名残惜しそうな視線を手元の剣に向けている。


「確かめてみればいいわ。抜いてみなさい」


 セレンが抜剣を促す。シンシアは首肯し、指に力を籠めゆっくりと鞘から剣を抜く。それはあまりにもあっさりとした様子で姿を現した。それは今まで抜かれたことのない剣だとはとても思えないほどの美しく、その壮麗な煌めきは人々の間につかの間の静寂をもたらした。その静けさを破るようにコルネットがシンシアの肩を叩く。


「よかったわね。これでその剣はあなたのものよ」


 シンシアは今だ剣の輝きに浮かされているのか上の空と言った様子だ。その様子に優し気な笑みを浮かべコルネットはそっとシンシアから離れる。


「ふむ、シンシア君はあれで決まりだな。後はノイン君だが……」


 トランは視線を右往左往させ小さな少女の姿を探す。すると少し離れた場所にその姿を発見した。ノインは鞘から抜いた妖しく輝く刀を眺めていた。刀身には血液が滴った後のような黒い線が無数に入っており、より一層悪魔的な艶を出していた。先ほどのシンシアの純白の剣のような息を呑むような美しさとは違い思わず吐息が漏れそうな妖しさを放っている。


「これいい。私、これが欲しい」


 ノインはその刀に魅せられたようで表情を緩めていた。


「君はそれか………。流石は竜を倒した少女たちだ。二人とも古代魔道具に選ばれるとは……」


「あれも古代魔道具なのね。それであの武器は刀よね?よく帝国にあれがあったわね」


「海の向こうにある東和国から譲り受けたそうですよ。何でも向こうでは妖刀と呼ばれ、あまり歓迎されるようなものではなかったとか」


「なるほどね。ねえ、ノイン。今の話を聞いてもそれがいいの?」


「ん。これがいい」


 ノインは刀を鞘に納め、腰に下げた異次元袋に入れる。その様子にトランは苦笑いを浮かべながらも軽く咳払いをする。


「これで君たちへの褒美は決まった。シンシアには<陽光剣/ヘリオス>を、ノインには<陰狼刀/フェンリル>を贈る。これからも世のためにその力を振るうこと期待する」


 その言葉を聞き、シンシアは膝をつき深々と頭を下げる。ノインもブラッドに促されシンシアに倣う。


「さて、これで君たちの用は終わったがこれからどうする?帰る足が必要ならこちらで用意するが……」


「大丈夫だ。王国側が用意してくれているからな。俺たちは今から王国に戻るとする」


 ブラッドは人が軽々通れるくらいの黒い穴を出現させる。


「そうか……。達者でな。また会える日を楽しみにしている」


「この度は本当にありがとうございました。お元気で」


「帝国に来たら声かけてね。また魔物退治でもしましょう」


 各々が別れの言葉を口にする。ブラッドの姿は穴の中に消え、二人は軽く会釈してから彼の後を追う。三人はその姿を最後まで見ていた。 







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